猫叉JK、風邪を引く。

2/4
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 ヤカンを火にかけ、湯が沸くまでの間に、私は作る料理を検討する。  まず、なるべく消化に良く、滋養がある料理が良い。  次に、出来るだけシンプルな料理。これは、工程が多い料理は、私では再現不可能、あるいは膨大な作業時間が必要だと予想されるためだ。彼女の腹の減り具合を考慮すると、料理の提供は早ければ早いほど良い。  最後に、刃物は一切使わない。それというのも、私は刃物の取り扱いを全面的に禁止されているからだ。同居したての頃は、私も時折料理をした。にも関わらず、台所が彼女の聖域と化したのは、何故か。それは私の刃物さばきが原因だった。  彼女曰く、『全身を複雑骨折したキリンのような、前衛芸術的な振るい方』とのこと。当初は斬れているから問題ないと抵抗した私も、彼女の作る料理の方が美味しいため、自然と台所に立つ機会は減っていった。  さて。上記を踏まえた上で冷蔵庫の中身を確認すると、ちょうど良い物があった。 「……うどん、か」  確か10日ほど前に買ったものだ。1袋3食セットが手つかずのまま残っている。  茹でるだけなら、刃物は不要。つゆに関しても、調味料を規定の分量で調合すれば良いだけだ。  それに、トッピング次第では、ご馳走感も演出できる。  湯が沸き次第、私は調理に取り掛かった。  パッケージの記載によると、茹で時間は3分とのことだが。 「今回は長めに、6分は茹でるか」  箸で麺を持ち上げたとき、自重で切れそうになるくらいのクタクタ具合を目指す。  食感的には、伊勢うどんだろうか。  あまりに柔らかすぎるため、コシを重視する者から避けられがちな伊勢うどんではあるが、そもそもアレは遠路はるばる伊勢参りに来た者に振る舞う、10秒チャージ的な補給食だったはず。風邪で弱った身体に負担をかけることはないだろう。  つゆは、うどんを煮ている間に作る。今回は彼女の好みに合わせて関西風だ。と言っても、溶き卵と市販の白だしを適量混ぜるだけ。塩分過多にならないよう、電子秤を使い、正確に計量する。  あとは食べる直前に、うどんとつゆを絡めれば完成だ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!