猫叉JK、風邪を引く。

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 食後の彼女は、手櫛で髪型を整えたり爪を見つめたりとどこか落ち着きがない。 「ねえ」  私が後片付けを始めようと立ち上がろうとすると、袖の端を引かれた。  わざわざ私に隣に寄ってくると、上目遣いで告げる。 「いつも、わがままを聞いてくれてありがとう」  驚いた私は、彼女の額に手を置いた。おそらく平熱、あっても微熱といったところだろうか。何となくそのまま撫で続けてみると、彼女は大人しく受け入れる。 「ちょっと。急にどうしたの?」 「また熱でも出たのかと。君にしては殊勝だったから」  満足そうに喉を鳴らす一方、私を見上げる視線には呆れが混じっていた。 「あのねえ。いくら私でも、あんなに献身的に尽くされたらお礼の一つも言いたくなるわよ」 「私は、病身の同居人に対して当たり前のことをしたつもりだが」 「熱を出した日に、早退して迎えに来てくれたのは?」 「保護者として当たり前だ」 「毎日色んな食べ物を用意してくれたのも?」 「君は気まぐれだからな。レパートリーは多い方が良いだろう」 「深夜に、アイスを買いに行ってくれたこともあったっけ」 「病は気からというだろう。メンタルが上向けば少しは早く良くなるだろうと思ってね」  私は肩をすくめる。  とにかく彼女には一刻も早く良くなってもらうために、最善を尽くす必要があった。 「生憎私には仕事があるんでね。風邪を移されたら堪らないんだよ」 「ふうん……」  ふいに、シャツの襟首を掴まれた。彼女の瞳が肉食獣の獰猛な気配をはらみ、一気に互いの顔が近くなる。 「——痛ッ!?」 「うぐえっ……!?」  そして、強烈な頭突きを食らった。  勢いをつけ過ぎたようで、彼女自身も呻き声を上げる。 「ご褒美よ。感謝なさい」  涙目で勝ち誇った彼女は、尾を左右に振りながら居間を出ていく。彼女が開けっ放しのままにした襖を閉め、私は深い深いため息を吐いた。 「……素直じゃないな」  我ながら、全くもって素直じゃない。  痛む額をさすりつつ、私は後片付けに取り掛かった。
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