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【1.水晶玉】
アリーは地味な服装で半分顔を隠しながら、王都のメイン通りを一本入った少し薄暗い路地を歩いていた。人づてに聞いた目的の店は、この路地沿いにあるという。
アリーは注意深く店の看板を探しながら歩いていたが、やがて「ここか」と立ち止まった。扉にはあまり目立たない文字で『魔女のデボラの店』とある。
オークリル侯爵家の令嬢であるアリーが、ほんの少しのお供を連れお忍びのようにやってきたのは、実はたいした理由はない。
「エイプリルフールの小ネタを探しに来たの」
アリーは店に入るや否や、迎えてくれた店主のデボラに言った。
デボラは特別驚きもせず軽く笑って、
「いらっしゃいませ。じゃあこちらなんかいかが?」
とアリーを奥の棚へと誘導した。
棚にしまわれている物を見てアリーは目を見開いた。
「これは、水晶玉?」
「そうですよ。水晶玉占いなんかネタになりますでしょ?」
デボラは棚から水晶玉を取り出し、得意げにアリーに見せる。
アリーは確かに水晶玉なんておもちゃは何とでも使えそうでエイプリルフール向きだなと思いながらも、
「私魔女じゃないんだけど、それっぽく見えるかしら」
と確認した。
しかしデボラの方は平気な顔をしている。
「大丈夫。これは魔女じゃなくても使えます」
「え、魔女じゃなくても使える……? って、どういう……?」
「普通の水晶玉ですよ。あら、水晶玉じゃご不満ですか? じゃあ別の物にしましょうかね」
とデボラがせっかちそうな様子で体を揺すり、さっさと水晶玉を棚に戻そうとするので、アリーは慌てて、
「あ、待って、待ってちょうだい。これでいいわ……」
とデボラを制し水晶玉を購入する旨伝えた。
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