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アリーは自分でもすごく適当だと思ったが、不思議なことに、呪文として効果があったらしい。
急に水晶玉が怪しく光ると、中に靄が渦巻き出したのが見えた。
「え!? 何か反応が」
とアリーが驚いていると、
「あら、なんか本物っぽいじゃないですか」
とマーサが期待に目を輝かせた。
アリーとマーサは頭を寄せて水晶玉の中を覗き込む。一体マーサの運命の人とは誰で、そしてどんなふうに水晶玉に映し出されるというの?
水晶玉の靄はぐるぐる渦巻いていたが、やがて濃淡がはっきりしだした。
それから、なんだか濃淡だけで表されていた輪郭に淡い色ながら色彩がつき、そしてついには水晶玉の中に景色や人物が映し出された。
驚いたことに、まず水晶玉に映されたのは、アリーとマーサが膝を突き合わせて座っている、今まさにこの場の光景だった。
「あれ? これって、今?」
とアリーが思っていると、やがて場面が移った。
今度はアリー宅からの帰り道に、マーサが所用で寄った商店に入ろうとする場面だった。後から来た一人の男性が割り込むようにしてさっと商店の扉を開けた。そして、マーサを振り返ると軽くウインクしたのだった。
アリーもマーサも水晶玉に魅入られていたが、その意味ありげなウインクにハッと息を呑んだ。その男性はライアン・ウィリアムズ伯爵令息だった。
水晶玉の中のライアンは何やらマーサに話しかけている。
マーサが胡散臭そうな顔でライアンを見ているのにはお構いなしで、ライアンはマーサを店の奥に引っ張っていった。ライアンと店主は口裏合わせていたのか、店主が飄々とした顔で小さな木箱をライアンに渡した。ライアンは何か言いながらそっとマーサの手を取り、木箱の中から取り出した宝石の煌めくブレスレットを巻きつけた。そしてそのままマーサの手の甲に軽くくちづけをし――。
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