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「水晶玉さん、私の運命の相手は誰?」
アリーは言ってしまってからドキドキする。水晶玉に映るものを一秒たりとも見逃したくない気持ちでじーっと水晶玉を見つめた。
なるほど、他の依頼者たちもこんな気持ちだったのか。
するといつものように、水晶玉の中に靄が渦巻き出し、そして何かの像を形どり始めた。
アリーは固唾を呑んで見守っている。
やがて靄はまとまりだし、濃淡がはっきりしてきて――。
最初の映像は神詣でだった。霊山山腹の大神殿へと、奥深い山道を身なりの良い人たちの行列が行く。
新緑の季節とはいえ、山道は生い茂る樹々で薄暗い。そんな中を行列の人々は厳粛な空気を纏ってしずしずと歩いて行くのだった。
そして水晶玉の映像は次に移った。
樹々の隙間から急に白っぽい背景に変わったのでアリーは「ん?」と思って目を凝らした。よく見たら、それは『滝』だった。水しぶきが散り背景が白っぽくなっているのだ。
そして滝つぼの脇の岩場で、一人の男性が怪我をした足を庇うようにして座っている。水晶玉がその男性の顔を映すと――なんとそれは我が国の王太子だった。
「え、王太子様!?」
水晶玉の中のアリーが王太子に駆け寄ると、王太子はほっとしたような目をアリーに向けた。水晶玉の中のアリーは何やら言いながら、王太子の腕を引き自分の肩を貸そうとしていた。
そして水晶玉の映像はさらに次へと移った。
霊山山腹の大神殿の中庭である。真っ白な小石を敷き詰め、大小さまざまな形をした岩がバランスよく配置された、殺風景な割には緊張感漂う中庭だ。
王太子は一つの岩に腰かけていた。足には包帯がまかれていた。
水晶玉の中のアリーが遠慮がちに王太子に近づいて行った。王太子は微笑んで何か言い、アリーが恐縮して跪こうとするのを、さっと腕を伸ばして引き留めた。そのままアリーに隣の岩に座るように促すと、手を伸ばしてそっとアリーの髪の毛に触れた。水晶玉の中のアリーは驚いて王太子を見つめ返し――。
水晶玉を覗き込むアリーの心臓がトクンと音を立てた。
これは、まさか!?
まさか王太子様が運命の相手だと言うの?
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