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明夫(あきお)は幼馴染とお花見をしようと、ある場所にやって来た。いつもは近所でお花見をしているが、みんなが新社会人として新しい門出を迎えた今年は、特別にとっておきの場所を探し、ここでお花見をする事になった。そこは、ホームページで調べた場所で、田園風景の中に桜並木が続いているらしい。ここは毎年春になると多くの観光客がやってきて、お花見を楽しむそうだ。
「ここ、ここ!」
明夫は息をのんだ。今が満開で、見頃を迎えている。その下には、多くの観光客が来ていて、所々にはシートを敷いてお花見をしている人の姿もある。
「きれいだなー」
一緒に来ている花江(はなえ)、海斗(かいと)、瑠利子(るりこ)も息をのんだ。こんなに美しい桜を見た事がない。こんなにきれいだとは。
「すごいだろー。これが僕の推しの桜並木なんだ」
「へぇ。きれいだね」
4人は桜並木を歩いていた。多くの人が歩き、お花見をしている。とても賑やかで、楽しそうだ。自分もここで早くお花見をしたいな。
「そうだろ。なかなか人気の桜の名所でしょ?」
「うん」
明夫はここの事をある程度知っていた。そして、この時期に満開を迎えると開花予報で知り、この時期に来ようと思ったようだ。
「半世紀以上前に、ある人がここに桜を植えたんだって」
「そうなんだ」
この桜は、ある人が半世紀前に植えたもので、今では全国的に有名な桜の名所だという。
「今ではこの町を代表する観光スポットなのさ」
「すごいね」
そろそろお昼だ。シートを広げて、お花見を始めよう。
「さて、お花見を始めよう」
「うん」
明夫は空いている場所にシートを広げた。海斗は持ってきた道具をシートの上に用意して、お花見の準備を進めていく。3人はその様子をじっと見ている。4人はもうすぐ始まる宴会を楽しみにしていた。
「就職して最初の1週間はどう?」
「わからないことだらけだけど、徐々に慣れてきた」
花江は大学を卒業後、OLになった。最初はまだまだなれない事ばかりだったけど、徐々に慣れてきた。だが、先輩に比べたらまだまだだ。だが、徐々に仕事に慣れてきて、先輩と変わらないぐらいに仕事ができるようになるだろう。
「そっか。僕もそんな感じだな。だけど、頑張っていれば慣れてくるでしょう」
明夫も今月から新社会人だ。明夫は金属加工の会社に就職した。力仕事は大変だけど、もっと力をつけて、てきぱきとできるようにならないと。そして、1人前にならないと。
「そうだね。努力はうそをつかないもんね」
「ああ」
宴会の用意ができたようだ。4人が折りたたみいすに座ると、明夫は持ってきた日本酒を出した。
「それじゃあ、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
4人はコップを合わせて、乾杯をした。4人は日本酒を飲む。新社会人になってから、全く飲んだ事はない。やがて上司と飲む事があるかもしれない。
「本当にここの桜はきれいだね」
「うん」
4人は、咲き誇る桜に感動していた。これが日本の春の風物詩だ。やっぱり桜は美しいな。
「やっぱ桜は、日本の花だ!」
「ほんとほんと」
明夫は気持ちが晴れやかになった。こんなのどかな田園風景の中、桜が咲いている。これが理想の日本の風景だろうか?
「のどかな風景の中、こんな桜並木は癒されるよ」
「そうだね。普段の疲れが取れるよ」
3人もその風景に見とれていた。これが日本のあるべき姿だろうか?
「まぁ、今日は思いっきり楽しもうよ! 仕事なんか忘れてさ」
「うんうん! 思いっきり楽しもう!」
と、そこに1人の老人がやって来た。その桜を見て、感動していない。何かを考えているようだ。もっと楽しめばいいのに。気楽になればいいのに。どうしてこんな硬い表情なんだろう。
「・・・」
「どうしたんですか、おじさん」
明夫はその老人の表情が気になった。老人はその桜並木を見て、何を思っているんだろう。
「ああ。この桜並木の道に、何があったか、わかるか?」
「わからないです」
明夫は全く知らなかった。ただ、のどかな田園風景の中にある桜並木だという事だけだ。
「教えてやろう」
その老人、英輔(えいすけ)は話そうとしている。だが、どこか寂しそうな表情だ。どうしてだろう。明夫は首をかしげた。
「何があったんですか?」
と、英輔はポケットから1枚の写真を取り出した。それはあの桜並木だが、そこには単行の電車が写っている。まさか、ここは廃線跡だろうか?
「これがその桜並木だ」
「えっ、電車?」
明夫は驚いた。まさか、この桜並木の並ぶ道は廃線跡なのか?
「あそこは鳥飼(とりかい)鉄道の廃線跡で、桜並木の中を電車が走る名所だったんだよ」
「そうなんだ」
この桜並木の続く遊歩道には、鳥飼鉄道が走っていた。大正時代に開業し、沿線の人々に親しまれてきた。だが、モータリゼーションの悪化で廃止になり、レールははがされた。そして、桜並木の道はレールから遊歩道に変わった。
「桜のシーズンになると多くの人がやって来たのに・・・」
鉄道が走っていた頃から、ここは桜の名所で、多くの鉄道ファンに親しまれたという。どうにか廃止にしないでほしいと、存続運動が起こった。沿線住民だけではなく、鉄道ファンも存続を願っていた。だが、その願いはかなわず、今から数十年前に廃止になったという。
「廃線跡だったんですね」
4人は、ここに電車が通っていた頃を想像した。だが、実際に見ないと思い浮かばない。だが、電車はもう来ない。
ふと、英輔はその先を指さした。その先には少し開けた所がある。ここにはさらに多くの人が宴会を開いている。
「あの先に駅があったんだけど、撤去されて何も残っていないんだ」
「へぇ」
あの先には1面2線の駅があった。だが、その痕跡は完全になくなり、道が少し開けている所だけが、ここに駅があったという事を伝えている。その先にあった駅は春になると多くの人がやってきて、線路に沿って歩き、お花見を楽しんでいたという。だが、それも過去の事。もうそんな風景はもう見られない。
「車窓から見た桜並木って、どんなんだったのかな?」
「だけど、もうその車窓は見れない、のか・・・」
明夫は寂しくなった。この時期の車窓って、どんなものだったんだろう。どれぐらいの人が感動したんだろう。もう思い出にしかない車窓。僕たちも見たかったな。
「もう電車は来ない・だけど、今年も桜は咲く・・・。寂しいものだ。あんなに廃線にならないように頑張って来たのに・・・」
英輔は寂しさを感じていた。当たり前のように見られた桜と電車のツーショットがもう見られないからだ。電車はなくなった。だけど、今年も桜は咲いていく。消えていくものもあれば、残り続けるものもある。両方残ってほしかった。だけど、それは時代の流れだろうか?
「大丈夫ですか?」
「廃線になるのが残念でたまらなくて・・・」
英輔は今でも忘れられないようだ。夜桜の中で、見えなくなるまで見送った営業最終日の最終電車の風景が。蛍の光の中、消えていく電車の光。そして、消えていく夜桜のライトアップが。
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