1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんね。もう会えない」
彼女、莉子は俺にそう言った。
俺、雄二は言葉を搾りだして彼女にこう言った。
「最悪のエイプリルフールだよ」
海が見える公園に日付が変わるチャイムが周囲に響く。
三月三十一日の夜中、四月一日の初っ端に俺はフラれたのだ。
俺は気付いたら電車の中にいた。
ガタンゴトンと人々を乗せる最終列車は妙に賑わっている。
四月は新年度の日、入学式や入社式が行われる日だ。社会人は明日に備えて既に就寝している者が殆どだろうから、騒いでいるのは多分学生だ。俺も大学生の頃はそんな感じだったからよく分かる。
莉子とは大学の入学式で出会った。
黒くて長い髪をなびかせて歩く美しい少女に俺は一目惚れだった。
自慢ではないが、俺の容姿は良くて並みの中。とてもではないが彼女とは釣り合うとは思っていなかったが、何度かの幸運が重なり、彼女と付き合うことになり、俺の大学生活は幸せの絶頂期といえた。
幸運なことに同じ会社に就職が決まったので、ある程度生活基盤が安定すれば同棲の後に結婚…という将来設計まで夢想していた始末である。
そんなわけで、フラれた原因には全く心当たりがない。まさに青天の霹靂だ。
俺は呆然としたまま、騒がしい電車に揺られるしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!