愛しの四月一日

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 春が始まった。  入社早々繫忙期にぶち当たり、毎日が忙しい。  とはいえ、失恋したばかりの俺にとってはそっちの方が都合が良かった。仕事に打ち込めさえすれば余計な事、即ち莉子の事を考えなくて済むから。  幸いなことに上からはどんどん仕事が降ろされてきて、残業時間は六十時間スレスレの瀬戸際くらいには忙しく過ごせていた。  どこかでほっと胸をなでおろしている自分がいたが、ところがどっこい、とてつもなく不都合な事件が起きてしまっていた。  彼女とは同じ企業で就業しているわけだが、最悪なことに同じフロアに配属となってしまったのである。おかげ様で毎日顔を突き合わせることになり、ただでさえ心が乱されがちなのに、思いっきりハンマーを心臓に打ち込まれる日々を過ごす羽目になってしまった。  業務上、どうしても会話ゼロというわけにはいかず、挨拶すらぎこちなく、俺は毎日よく分からないプレッシャーに晒されていた。  しかもそれだけじゃあない。  最近気付いたのだが、どうも同期の一人と最近仲睦まじい気がする。そいつも同フロアの一人なのだが、やけに一緒にいる場面に遭遇するのだ。  朝の満員電車、昼の飯時、帰りのエレベーターで一緒にいるのをちょくちょく見かける。  勿論それだけで決めつけるのは宜しくないだろうが、心中穏やかでいられるはずもない。  俺の飲酒癖はこの頃からついてしまった。ウイスキーや日本酒が恋人になるとは、学生時代からは想像もしていなかった。
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