愛しの四月一日

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 夏が始まった。  相変わらずの繁忙期は続いており、毎日目が回るほど忙しい。俺はへとへとになりながらもなんとか生きていたが、良いこともあった。夏休みである。  当初こそ、莉子との関係が頭を過り、周りの人間関係はおざなりになっていたが、流石にこの頃になると、周囲とのコミュニケーションはとるようになっていた。同期の連中や先輩方、上司の方とも呼吸が合うようになり、長期休みに遊びに行く計画から声をかけられる程にはうまくやれるようになっていたのである。  楽しい日常も謳歌するようになり、俺の青春も再度花開くかと思われていた。  が、駄目。  どうやら嫌な予感は的中してしまったらしい。  莉子と同期が付き合いだしたらしいのだ。  俺が仕事にかまけている間、順調に関係を深めていたようで、皆で海に行った時、砂浜で横になった友人からそれとなく聞かされた。  俺の眼前には二人仲良く花火をしている莉子と同期がいる。  控えめに言っても地獄だった。  苦難は更に続く。  夏休みの予定にはちょっとしたお泊り旅行へと赴くプランもあったのだ。その旅行はちょっとしたお泊り企画だったが、その間、仲の良さをこれでもかと見せつけられる俺の立場を想像できたろうか。  周りの連中は勿論俺と莉子の関係を知らない。祝福ムードの中、俺だけは暗澹たる心でもってこの事態に立ち向かわなくてはならなかった。  たった一人を除いて、皆楽しい思い出を作っただろう。
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