「お腹が空いているのに」

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 それもあり、ぞうすいを食べることが出来たことで自信もつけた私は、買い物に行き、空腹が訴えるままに食べたいものをいっぱい買って、徐々に固形に慣らし、お腹を壊さなさそう?だいじょうぶ?と自分の身体と相談して、私はフライドチキンを食べた。  歯をしっかり動かして、がぶっと噛みつく。  瞬間、肉汁が溢れてじゅわっと舌全体を覆った。  自分の唾液で溺れそうになった時を思うと、この汁でならば溺れてもいいと思うほどの幸福を感じる旨さと香ばしい匂い。  噛みついたまま、肉汁を口の中で味わって、感動した。  多少ピリっとした痛みが付きまとうが、もう悶絶するほどのものではない。  食べれる、食べれるのだ。  肉を噛みちぎって、口の中で咀嚼する。  柔らかい肉だった。  歯でホロホロとほぐれて口の中で細かくなっていく肉は美味しくて、涙が出そうになった。  美味しい  スパイスがたくさんちりばめられたチキンの皮を少し剥がして、口に入れる。  サクっと軽い音がして、口の中に入った。  揚げられて固くなった皮が舌にあたると勿論少し痛かったのだが、そんなことが気にならないほど美味だった。  フライドチキンの一番美味しいこの部分。  食べたくて仕方なかったこの味。  幸せが、私を満たした。  空腹が満たされていくのを感じた。  ダイエット、と思って食事を減らす時は何度かあった。  でも、食べられないのはとんでもなく辛い。  食べたいものを食べるのは、生きる中で滅茶苦茶幸せなことだと実感した。  時間がなくてご飯を急いでかっこむことも何度かあったが、それがどれだけ勿体ないことか、私は一週間で身に染みて味わった。  食べる  例え、時間がなくても、ウィーダーゼリー1つでも、味わうことの幸せを大切にするべきだと、生きている限りはそれが大切だと私は学んだ。  治ってすぐ、私は忙しい育児と家事と仕事の波にまた溺れている。  それでも、お腹が空いた、と感じたら、食べる時間がどれだけ短くとも、口の中で味わって、幸せを感じて、飲み込むようにしている。  もう二度と、あんな事態が起こりませんように  健康的な体を保つために、バランスよい食事をしよう。  そこに苦手なものが入っていても、味わえるだけでも幸せをちゃんと感じよう。  空腹なのに食べられないあんな地獄を2度と味わうことのないように。  今日も生きて、美味しいご飯を口にして、味わうことができることに。  全てに感謝して、私は今日も手を合わせて心をこめて、空腹を訴えるお腹の音と共に言う。 「いただきます」  fin
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