「お腹が空いているのに」

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 でもそれは、かきむしりなりたくなるほどのものではなく、虫にさされてかゆいけどまぁなんとか我慢できる、みたいな程度のものだった。  ふと手を見たらぽつぽつとした赤い点ができていた。  これは、先週保育園で何度も見たぽつぽつで、私は『まさか』と血の気が引くのを感じた。  そして職場に着くと案の定微熱が出始め、私の手を見た保育士たちは口を揃えて「今日は休め」と言った。  申し訳なさと有難さの気持ちで呻きながら私は病院に行こうとしたのだが、ここで大問題。  現金の持ち合わせがなく、銀行にもお金はない。  旦那にもらうか、給料日まで待たないと病院には行けないという状況に、私は翌日休みをとっているしとりあえず明日行くことにしようと決めた。  とりあえず微熱があるから一度1時間の睡眠をとり、溜まっている家事をこなし、そろそろ子どものお迎えの時間が迫るから遅めの昼食を済まそうとした時に、それは起こった。  なんとなく水を飲んだ瞬間、舌が痛い。  出産時の痛みに比べればまだギリギリ我慢できる痛さではあるが、到底ご飯を食べようという気にはなれない痛みだった。  もしかしたら一時的なものかもしれないし、一食抜いても大丈夫だろうと判断した私はひとまず子どもの迎えに行き、帰ってきた子どもたちにおやつを用意し、掃除や洗濯やら部屋の片づけやらをしているとあっという間に晩御飯の時間となっていた。  その時、私はお腹が空いていた。  一食抜いたから当然なのだが、ものすごくお腹が空いていた。  出来ればがっつりとしたお肉を食べたい、というぐらいにお腹がへっていた。  偶然にもトンテキにできそうな豚肉が数枚冷蔵庫にあったので、早速私はネットのレシピを参考に作り始めた。  空腹のせいもあってか、漂う匂いは香ばしく、そして甘味と濃厚さが絶妙にマッチしたソースの香りが早く食べたいという気持ちを増幅させた。そんな気持ちが膨れ上がったからか、私の口の中に唾液が溜まる。やはり空腹を感じると人間は唾液が口にたまるものなのだな、とそれを嚥下した時だった。 「~~~~!?????」  痛い。  飲み下した瞬間の口内全てが痛い。  え、唾液で?  何故?  嘘でしょ?  痛みに苦しむ私なんぞ気にしないように、お腹は鳴る。  腹が減った、はやく食べ物をよこせ、と鳴る。  そう言われても私は痛みで視界が揺らぐレベルだった。  これはまずい、と私は病院に行く準備をしていると運よく旦那が帰って来たので「やった!」と思い事情を説明しようと口を開いた。 「わはひほーいんいひはい」 「は?」  私の言葉に旦那が訝し気に眉をひそめた。  正直、私も旦那と同じ気持ちだった。  なんだ今のは。  言葉でさえなかった。  そして舌に激痛が走る。  ただ、「私病院行きたい」と言おうとしただけなのに。  口を押えながら蹲る私に旦那は察したようで、私の財布に諭吉さんをねじ込むと「病院つれてったるから今すぐ行こう」と連れて行ってくれた。子どもは車の中でタブレットの動画やゲームをさせることでなんとかなった。  そうして病院についた私に下った診断は、先週保育園で流行った病。  手足口病だった。  私は薬が欲しかったのだが、お医者様は申し訳なさそうに首を振るだけだった。  私は、絶望した。  そもそも手足口病は薬というものがなく、熱が高ければ解熱剤が出る程度で、専用の痛み止めといったものもなかった。なんとかこの痛みだけでもなんとかしてほしかったが、自然治癒が一番と言われた。
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