どんな時でもお腹は空く

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 私の働くお店は、六十歳の店主さんがほぼ一人だけで回しているような小さなラーメン店です。  夕ごはん時の忙しい時間帯。カウンター一列しかないお店の中は、ほぼ満席です。  そんななか、また一人お客さんがお店の中に入ってきました。いつもスーツを着ている、三十代ぐらいの常連の男性です。 「らっしゃっせ」  店主さんがそっけなく挨拶します。  少し遅れて、私もお客さんに挨拶しました。もちろん私は愛想良く。お客さんは反応を示しませんでしたが、いつものことなので気にしません。いえ、本当は少し寂しいですが、仕方ないですよね。  店主さんが何も言わなくても、お客さんは勝手に空いている席に座りました。  ややあって、お客さんはメニュー表を見始めます。いつもなら、味噌ラーメンと餃子のセットと決まっているのに、今日はどうしたのでしょう。  お客さんの顔色をこっそり窺うと、あまり顔色が良くありません。体調が悪いのでしょうか。  もしかしたら、恋人にフラれたのかもしれません。それとも、会社をクビになってしまったのでしょうか。  なんて頭の中では失礼なことを考えながらも、もちろんお客さんを詮索したりはしませんし、顔に出したりもしません。  私に出来ることは、ただ店主さんの作るラーメンをお客さんに届けることだけですから。  そういった意味では、元気がなくても、お店に足を運んでくれたのはありがたいです。だって、きっと店主さんのラーメンを食べたら、元気が出ますから。  しばらく悩んだのち、結局お客さんはいつもの味噌ラーメンと餃子を頼みました。    やっぱりそうだと思いましたよ。  うちのお店に通い出した日から、こちらのお客さんはいつも同じものを頼んでくれていましたから。  一時期彼女さんを連れて来てくれていた時も、数ヶ月後にはまた一人で通うようになってからも。いつも味噌ラーメンと餃子でしたよね。
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