四月一日のフール

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「ああ、うまかった……」 「良かったなあ。仲間たちも喜んどるわ」  満足のつぶやきをもらすおれに、一つだけ残ったたこ焼きが相槌を打ってくる。食事の間にこいつの自意識とやらが消え去ってくれることを期待したが、だめだったらしい。 「あのさ、そろそろ第二弾を焼きたいんだけど、そこどいてくれないかな……」 「それにしても、最後の食事におれらを選んでくれてありがとな。ほんま感謝やで」 「え?」  いま何て言った? 不穏な言葉を聞いた気がして問い返すと、たこ焼きは「あれ、知らへんのか」と言った。 「ちょっと外見てみい」  うながされ、おれはベランダに近寄った。昼下がりの春の午後、外の景色におかしなところは見当たらない。 「ふーん、まだ見えへんか」 「見えないって、何が」 「隕石や」  たこ焼きは言った。 「これから数時間後、地球に隕石が落ちる。けっこう大きいやつ」 「はあ?」 「たぶん人類は滅亡すると思う」  あまりにも突飛な発言に、おれは驚くよりも呆れてしまった。 「またワケのわからんことを……そもそも、お前の存在自体がワケわからんけど」  念のためにとスマホを取り出し、ニュースアプリやSNSを確認してみる。 「そんなニュースどこにもないぞ」 「報道が規制されとるんや。『ディープ・インパクト』て映画、見てへんのかい」  お前は見てるのかよ! いやそれはこの際どうでもいい、よくないけどまあいい。 「そんな大事(おおごと)、規制したって隠し通せるはずないだろが! 情報がないのは絶対おかしい。それに、そんな巨大な隕石が落ちてくるなら、何か予兆があるはずだろ? 光とか音とか、何かが」 「それがおれやねん」  たこ焼きはおれの反論をさえぎった。 「おれが、その予兆やで。よく考えてみ。タネを加熱したからって、ふつうたこ焼きがしゃべりだしたりするか? せえへんやろ」 「いや、それについてはお前がシンギュラリティとか言うから……」 「全部、隕石のせいやで」たこ焼きは静かに言った。 「隕石が放出しとる磁力の影響で、おれの意識が芽生えたんや。ごめんな、こんな話で」 「……そんな」  おれは絶句した。じゃあ、本当に地球に隕石が衝突する? これから数時間後に? 人類全滅? 「嘘だろ、せっかく希望の研究室に入れたのに……おかんは今年こそ家族でハワイに行こうって言ってて……は、阪神のV2だって見たかったのに……それは無理かもしれんけど……」  急なめまいに襲われる。おれはふらつき、テーブルにもたれかかった。
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