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そして、やわらかい何かを踏んだ。くしゅくしゅになったまま、ベッドの横に落ちていた俺の靴下だ。でも昨日の靴下じゃないな。また舌打ちをする。もう片方はどこだ。布団を剥いだが見当たらない。探す時間はないから、帰ってきてからにしよう。
記憶の中で、また凪沙が文句を言っている。
『靴下、洗濯機に入れてよ』
『なんでいつもくしゅくしゅになってんの』
『もう片方はどこ』
『また裏返し』
洗濯された相方のいない靴下は、何足かまとめてチェストの上に置いてある。「いつかは揃うでしょ」と笑って受け流した。色が違う片割れ同士は、一緒になれなくてずっと相方を待っている。
そうだ、凪沙と交わした最後の言葉はなんだ? そこに出ていったヒントはないか。
――もう、無理。
それが交わした最後の言葉だ。無理ってなんだ。お互い好きだから付き合って、ずっと一緒にいたいから同棲した。普通に生活していたじゃないか。一緒に暮らしていれば、不満が出たり、喧嘩になることもあるだろう。でも、いつも怒ってるのは凪沙の方だ。
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