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トレンチコートの裾を翻し、凪沙は出ていった。まるで俺には何の未練もないと言わんがばかりに。
ドアが閉まる音を最後に、二人で過ごした日々が終わった。俺は追いかけなかった。これ以上、惨めな思いをするのはごめんだ。
週末、二人で映画を観て、ランチや買い物をして……と、よくあるデートを楽しむつもりだった。でも、上司から急な呼び出しがあった。休みなのに申し訳ない、突発的なトラブルで人手が足りないから来てほしいとのこと。
デートが台無しになった。でも今までだってこういうことはあったし、仕事なんだから仕方ない。凪沙は仕事のことを理解してくれていると思っていた。「仕事と私、どっちが大事なの!?」なんて言ってくるような、めんどくさい女ではなかったはずだ。将来的には結婚だって考えている。だからこそ仕事は大事にしなければいけない。
とりあえず喉が渇いた。朝から何も口にしていない。冷蔵庫から麦茶ポットを出すと、コップの三分の一もないくらいの量しか残っていない。そうだ、昨夜寝る前に飲んだ時、少しだけ残ったんだ。
ため息が自然ともれた。僅かな麦茶を一気に飲み干し、ポットをシンク横に置いた。
ふと思い出した。
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