青空が泣いた日

11/11
前へ
/11ページ
次へ
 赤ん坊の虹彩に写るものはなにか。  その青い瞳は、何に惹きつけられているのか。  ――アンには想像ができた。赤ん坊が見る景色。写真の外側の世界。そこにはカメラを持った女性が立っている。女性は白いワンピースに麦わら帽子を被っていた。そして、赤ん坊と同じ青い瞳を持っている。赤ん坊はその時、レンズの光を観察していた。陽光に照らされて、長い光の線を伸ばしている様子を見ていたのだ。  暑い夏の日。アンの暮らすジャングルでは聞こえない蝉の声が轟いていた。彼女の知らない景色の中で、二人の大人が笑っていた。赤ん坊はじっとレンズを見つめていた。  ゆるりと、青く宝石のように輝く双眸から雫が零れた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加