青空が泣いた日

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 乱立する高木の樹冠が複雑に絡まりあい、大きな屋根のように太陽光を遮ってしまっているというのに、ジェイクスは肌に纏わりつく汗が噴き出して止まないことにうんざりしていた。いっそのこと、肌を露出しないように選んだ服を全て引き裂いてしまいたい気分だったが、ジャングルを全裸で歩くのは一夜限りの女とゴムをつけずに寝るくらいには危険な行為だろう。実際今だって、バターまみれのパンが「どうぞ、お召し上がりください」と誘惑しながら歩いているようなものだ。ジェイクスの周囲では、汗の臭いにつられた蚊が耳障りな羽音を鳴らしていた。  この鬱蒼とした大地を歩き始めてから、既に二週間が経過している。大容量のリュックサックに詰め込んできた食料は底を尽きかけており、ジェイクスは来た時と比べて随分と身軽になっていた。胃袋の中身も同様らしい。ぐうと腹が鳴る度に、地面から無尽蔵に生えている草の味がどんなものかと想像を巡らせる。 「レストランはどこにあるんだ? シェフでも連れてくるんだったか……」  ジェイクスがここ数日で伸びた髭を撫でながら、そう独りごちていると、彼の髭よりも更に伸びた野草がガサガサと音を立てて揺れ動いた。――咄嗟に身構える。ジェイクスは猪も刺し殺せそうなほど鋭利に研がれたサバイバルナイフを手に握った。警察学校で格闘技を習ったこともある。彼は敵意を向ける相手と対峙するのには慣れていた。
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