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――さあ、いつでもかかってこい。こちとら、そこいらの猛獣よりも飢えていて獰猛だぞ。迂闊に近づいてこようもんなら、逆に噛みついてやる。
一人、息まいていたジェイクスは、次の瞬間に拍子抜けした。眼前に現れたのはジェイクスの腹の高さほどしか背丈のない少女だったのだ。
「驚いた。子供が暮らしているという噂は本当だったんだな」
ジェイクスは勢いのまま構えたナイフをしまい、少女の目線に合わせるように身を屈めた。彼女は褐色の肌に、宝石みたく輝く碧眼を持っている。肩ほどの長さの黒髪も艶やなことから、この近くに集落があって毎日髪の手入れをしていることは疑う余地がなかった。
「言葉は分かる? おじさん、迷子になっちゃったから案内してほしいんだけど」
少女はそれには答えずに、じっとジェイクスのことを見つめていた。
「あのさ、お腹もペコペコなんだよね。出来れば、俺みたいなひもじい思いをしている人をみたら放っておけないタイプのお節介オバさんがいる家に案内してくれると助かるな」
ジェイクスは自分のお腹をさするジェスチャーも交えて、少女に訴えかけた。その甲斐あってか、少女はやっと口を開いた。彼女は穏やかに流れる川のような心地の良い声をしていた。
「この辺に大人はいないよ」
「うん、君一人で住んでいる訳じゃないだろう?」
少女はその問いには答えなかった。ジェイクスは自由奔放とも取れる彼女の態度に困惑し、頭を掻いて少し考えてから、話題を変えることにした。
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