青空が泣いた日

3/11
前へ
/11ページ
次へ
「名前は?」 「皆からはアンって呼ばれてる」  アンの言葉を聞いてから、ジェイクスは霧がかかったような面持ちで眉をひそめる。 「皆からってことは、さっきの質問の答えはイエスってことでいいんだな?」  アンは寸刻、ヒューズが飛んだみたいに停止したのちに、ハッとして「しまった」という言葉を幼い顔に描いてみせた。感情表現豊かな彼女の表情に、ジェイクスは思わず吹き出しそうになったが、出てきたのは空気が抜けるような力のない溜息だ。彼は自分自身の認識よりも幾分衰弱していた。頬は痩せこけており、栄養の足りない肌は赤くただれている。顔色は死体と見紛うほどに悪い。――だが、身体の状態に反して、感情の方はハイになっていた。今なら、どんな肉食獣に襲われても、返り討ちにしてやれるという自信に満ちていた。 「アン、頼むから君が暮らしている村があるなら案内してくれないか。その辺の雑草を食ったり、ホラー映画よろしくカニバリズムに目覚めるのはごめんなんだ」 「カニバリ……?」 「人を食うことだ」  アンはその言葉を聞き、自分を指さして首を傾げた。それにジェイクスが頷くと、彼女の顔が血を抜かれたみたいに青ざめていく。何度もジェイクスの顔を見つめてはオロオロと目を泳がせていた。 「そうならないようにする為に、飯が必要なんだ。この辺に集落はあるんだよな?」 「村は……大人は来ない方がいいと思う」 「どうして?」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加