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「名前は?」
「皆からはアンって呼ばれてる」
アンの言葉を聞いてから、ジェイクスは霧がかかったような面持ちで眉をひそめる。
「皆からってことは、さっきの質問の答えはイエスってことでいいんだな?」
アンは寸刻、ヒューズが飛んだみたいに停止したのちに、ハッとして「しまった」という言葉を幼い顔に描いてみせた。感情表現豊かな彼女の表情に、ジェイクスは思わず吹き出しそうになったが、出てきたのは空気が抜けるような力のない溜息だ。彼は自分自身の認識よりも幾分衰弱していた。頬は痩せこけており、栄養の足りない肌は赤くただれている。顔色は死体と見紛うほどに悪い。――だが、身体の状態に反して、感情の方はハイになっていた。今なら、どんな肉食獣に襲われても、返り討ちにしてやれるという自信に満ちていた。
「アン、頼むから君が暮らしている村があるなら案内してくれないか。その辺の雑草を食ったり、ホラー映画よろしくカニバリズムに目覚めるのはごめんなんだ」
「カニバリ……?」
「人を食うことだ」
アンはその言葉を聞き、自分を指さして首を傾げた。それにジェイクスが頷くと、彼女の顔が血を抜かれたみたいに青ざめていく。何度もジェイクスの顔を見つめてはオロオロと目を泳がせていた。
「そうならないようにする為に、飯が必要なんだ。この辺に集落はあるんだよな?」
「村は……大人は来ない方がいいと思う」
「どうして?」
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