青空が泣いた日

　アンは少し言い淀んだのちに答えた。自分が食われてしまうかもしれないという恐怖からかは分からないが、この暑さだというのに微かに唇が震えていた。
「村の皆は大人に捨てられたから、大人のこと敵視してるの」
　――やはり。
　ジェイクスは目を細めてアンの顔を覗き込んだ。
「君もそうなのかい？」
「うん、昔のことで覚えてないけど、そうだって聞いた」
「……恨んでいるかい？」
「分からない。なにも覚えていないから」
　彼女の瞳が、樹木の傘に隠れてみえない空の代わりに青く揺れていた。生ぬるい風が肌を撫で、大きな葉っぱがゆるりと宙を舞う。「そうか」というジェイクスの相槌は、時間の流れに攫われ消えてしまった。秒針が奏でるような一定の旋律が、草木に囲まれた狭い空間の中で鳴っている。その音はジェイクスの耳の裏側で響いていた。

「俺は、このジャングルに――」