青空が泣いた日

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 ジェイクスが言いかけた時だった。風を切る音とともに飛んできた針が、ジェイクスの首の後ろに刺さる。声にならない喘ぎとともに、ぐらぐらと頭が揺れる。彼の視界に映るものすべてが二つにぶれて、水が落とされたようにぼやけていく。  ジェイクスは最後にもう一度、アンに向けて何かを告げようとしたが、言葉にならないまま気を失ってしまった。 「よくやった、アン」  高い木の上から、蔦を掴んだ少年が下りてきた。片手には吹き矢を持っている。少年はアンよりも少し背丈が高く、自分の肩くらいの高さにある彼女の頭に手を置いた。 「アンが引きつけてくれたおかげで上手く当てれたよ」 「リグ……」 「ん? どうしたんだい?」  リグと呼ばれた少年は、丸い目でアンの顔を覗き込む。彼女は迷夢にうなされるように眉をひそめていた。リグが、このようなアンの苦痛の表情を見たのは初めてのことだ。リグは地面に倒れるジェイクスの背中を睨みつけた。 「……この大人になにか言われたのかい? アン、そうなんだね?」  アンは頷かなかった。ただ不安げに目を泳がせている。 「だから大人は嫌いなんだ。僕達を捨てたくせに、きっと説教臭くこんな所にいちゃいけないなんてことを言ったんだろう? 君の動揺を煽るような物言いで君を街まで連れ去ろうとしたんだ。そうだろ?」 「リグ、違うの。そうじゃなくて――」  アンが言い切る前に、リグは彼女を抱きしめた。 「大丈夫。何も心配しなくていいんだアン。君は――君たちは僕が守ってあげる。食料のことも、生活のことも、未来のことも、なにも心配しなくていい。ここにいる限り、君は一人じゃないんだ」  リグの胸の中は慈愛に満ちていて、アンにとっても心地が良かった。アンは微睡みに目を瞑る。真っ暗な瞼の裏側で、心音が穏やかに収束していく音が聞こえた。まるで、オルゴールが奏でるような柔らかな音色。アンの意識は、夢と現実を彷徨う途中で、道しるべのように差し込む陽の光に包まれていた。その光の中で、彼女はリグの声を聴いた。  「僕達だけが君の味方だからね」
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