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異世界と武器
露店の店主はこくりこくりと眠りこけていたが、
「よう、大将」
ジャイロの声で目を覚ました。
「おう、ジャイロか」
店主は僕の方をちらりと見ると、心底迷惑そうな顔で
「見ない顔だな」
と呟いた。
「新入りだそうだ、なにかいい武器があったら教えてくれ」
今、僕が持っている武器はジャイロから借りたものだ。彼は僕と一緒にお金を集めて武器の世話までしてくれようとしていたのか、ということをここでようやく理解した。
なんていいやつだろうとジャイロを見上げる。そんな僕の視線には気付かずに、彼は真剣に武器の品定めをしている。
「これとかいいぞ。手入れもあまり要らずに初心者向きだ」
言われたのは貸してもらったのと変わらない太刀。
「まあ、いいんじゃないか?」
どうだろうかと2人揃って僕を見る。そんなに見られても僕には武器の良し悪しはわからない。
だから、
「そうだな、これにしようか」
とおすすめされた武器を買うことにした。
「はいよ、金貨3枚ね」
3枚が安いのか高いのかわからない。
しかし、さっき倒したスライムたちの分でお金は足りた。
「ありがと助かったよ」
店を離れて並んで歩く。
「これでいっちょまえの冒険者になったな」
「最初に出会ったのがジャイロでよかった。これ、借りてたやつ」
僕は太刀を返した。ジャイロは助けになったのならよかったと笑顔で刀を受け取った。
そして、それをゆっくりと鞘から引き抜くと、首もとに当ててきた。
「じゃあ」
「え」
「死んでもらおうか」
なんでーーーーーー?????!!!!!!
僕はとっさに後ろに下がり、ジャイロから距離を取る。
彼は一目散に僕をめがけて刀を振り下ろした。
「ちょっとまって!なんで!」
先程買った太刀で応戦する。ジャイロの刀をかきんと受ける。
それだけで
「折れた?!」
僕の太刀は折れてしまった。なんてこったい。
そもそも、ジャイロの方が実力は上。まともに戦って勝てるはずがない。
「金なら渡す!」
「いや、新人冒険者の首はもっと金になるんだよ!」
「じゃあ、なんで出会ってすぐに殺さなかったんだ!」
「それはな……」
いつのまにか壁に追い込まれて逃げ道を失った僕の顔を見下ろして、ジャイロは心底嬉しそうに
「そうやって絶望した顔を見るのが楽しんだよ!!」
こんなことあるのか?
僕はここで死ぬのか?
何も持ってない、力もない。
物語だったらここで助けが来るもんじゃないかと思ったがだれもこない。
その瞬間、僕は死にたくないと思った。
体が勝手に横に転がり、間一髪のところでジャイロの攻撃を避けた。
僕の頭の中に浮かんだのだは、今まで読んできた物語たちだった。
仲間に裏切られたときの方法……
……わからない!!
にげろ!!
「おい、待て!」
鬼ごっこの要領だ。必死に立ち上がり、人がいないところを探す。
ちょうど樽の裏に隠れることができて難を逃れた。
ジャイロの姿が見えなくなって、ようやく一息をつく。
あいつはいったい何が目的なのだろうか。
異世界では人間を信じてはいけないのだなと一つ学んだ。
それにしても、と辺りを見回す。樽が町中にあるのが異世界だなあ。
そっと人通りがある場所までやって来ると、すでに日が傾いていた。
とりあえず、生活をするためには今日の夜を過ごすしかない。そのためには宿に止まるべきだと考えた僕は、宿探しを始めた。
先程の武器屋もグルなのだろうと考える。それでもこの町の治安は悪くはさなそうだ。ということを町に落ちているゴミの少なさや、子どもたちが自由に走り回っている様子を観察して想像する。
町の大通りに面している宿屋なら比較的安全だろうと予想して、ある宿屋に入った。
受け付けにいたのは優しそうな顔をしたお姉さんだ。一泊できるか尋ねると
「お部屋ですね、空いていますよ。金貨一枚ですがいかがでしょうか?」
「安!」
思わず声が出てしまった。受け付けのお姉さんは、僕の格好を見て
「新人冒険者さんですよね?うちは結構高い方の宿なんですけど、大丈夫ですか?」
と聞いてくれた。ここに来てようやく、僕はこの世界の相場に騙されていたことに気付く。
「じゃあ武器に金貨3枚とかは……」
「金貨3枚!!1ヶ月の給料ですよ!勇者様ならお持ちになるかもしれませんが……どんな強い武器なんですか」
僕は先程の戦いでボロボロになった刀をお姉さんに見せた。
「これが、金貨3枚ですか……?」
「はい……」
僕たちの間になんともいえない空気が広がる。
「……騙されてしまったんですね」
心底哀れむものを見るような目でお姉さんが言った。
「かわいそうなので、今日は銀貨1枚でいいですよ」
この世界では銀貨5枚が金貨1枚と同じ価値だということを教えてもらい、今日は破格値で眠りにつくことができた。
もしかしたら夢なんじゃないかと思ったが、起きても異世界だった。
手持ちは折れた刀と金貨1枚。銀貨3枚。
部屋から降りて受け付けのところに行くと、昨夜のお姉さんがいた。
「よく眠れました?」
これは現世と同じ社交辞令なんだなと思う。
「おかげさまで」
僕も定型文を返した。
同時に、ぐうとお腹が鳴った。
「朝食は宿泊費に含まれていますので、どうぞ召し上がってください」
そこにあったのは、ほかほかの白ご飯と目玉焼き。よかった、食べるものは同じらしい。これでカエルの丸焼きなんて出てきたら困るものな。
昨日ぼったくられたことを思い出すと懐が痛い。
食費がかかるからお金は必要だ。しかし、僕には戦う武器がない。
このお姉さんならちゃんとしたことを教えてくれるかなと思って
「いい武器屋を知りませんか?」
と聞いた。
それなら、と教えてもらったのは隣にある店。
朝食を食べ、お姉さんにお礼を行って隣の店に行くと、今度は
「へい、いらっしゃい!」
とラーメン屋の店主のような元気がおじさんが営業している武器屋だった。
この店では全ての武器に値段がわかるようについている。現世ではそれが当たり前だった。異世界だから仕方がないと思っていたので
「このお店は全部値段が書いてあって分かりやすくていいですね」
と店主を誉めた。
「いやいや、値段が書いていない店は存在しないよ。きちんとした値段を書くことが法律で定められているからね」
と教えてもらった。
僕は昨日の出来事を話した。
店主はびっくりした顔で
「それは違法店だな、兄ちゃんついてないな」
と言われてしまった。
結局その店では、金貨1枚で折れにくい刀を買った。
僕の所持金……銀貨3枚。
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