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ジェシカ
ケイトはジェシカを引っ張るようにしてサロンから出て来た。
「ねぇジェシカ、あなたは自分が何をしたかわかっている?」そう詰め寄るケイト。
ジェシカは、おさむには冷たくされ、ケイトには叩かれて納得できないでいる。
「なぜこんな事をされなきゃいけないのよ!!」
「おさむは、あなたを愛していない。そう言ったわ」
「そんな事ないわ。あの女の前だからそう言ったのよ!!」
「じゃあ、彼と寝たの?クリスマスは一緒に過ごしたの?パートナーが必要なパーティーに一緒に出かけた事がある?」矢継ぎ早に問い詰めるケイト。
「・・・」ジェシカは黙って下を向いている。
「何を黙っているの?彼がジェシカを愛しているのなら全部あるはずよね」
「・・・」
「言えないって事は、何もなかったって事でいいのね」
昔から、ジェシカは都合が悪くなると黙る。
でも今日はそうはさせない。
きちんとさせないと。
「そうよ、悔しいけれど何もなかった」そう答えて悔しそうにうつむいている。
青い目から大粒の涙が流れているのを辛そうに見ているケイト。
「ジェシカ・・・」
「彼は、私を見てくれると信じていた。今の今までで。そう信じていたかった。でもそうじゃない。認めたくないけど」
「ジェシカ、あなたは昔から男の人は自分を好きだと思う癖がある。ちょっと微笑んてくれたり、優しくされるとそれだけでそうなってしまうのよね。おさむは、父の手前あなたに優しかっただけだと思う。それを勘違して、みっともないことをするなんてどうかしてるわ」
「おさむは、私が好きでも日本人だから自分から行動に出れないだけよ」
「まだ、そんな事を言っているの?おさむはね、あなたじゃなくてエミを愛しているの。アメリカにいる時もね。部屋にエミの写真が飾ってあったのを知らないの?」
それを聞いたジェシカは力無く
「私は、おさむの部屋に入れてもらえなかった」
そのことからもジェシカと距離を取っているのに気付かないなんて、どこまで自己中なのか呆れてしまう。
2人を追って出て来ていた悠斗が、ジェシカに声をかけた。
「ジェシカさんは、おさむさんの事をどれだけ知っているの?」
「どれだけって?」
「誕生日とか、何が好きだとか」
そう聞かれて答えられないジェシカ。
「好きな人のことってさ、どんな事でも知りたいと思うだろ?自分のことも知ってもらいたいだろ?」
「そうね、考えてみたら、彼は仕事仕事で私と2人で出かける事はなかったわ。個人的な話もしていないわ」
「自分の気持ちを押し付ける愛し方より、相手の気持ちも考える愛し方をした方がいいと思うよ」と悠斗に言われてガックリと肩を落とすジェシカ。
アメリカに帰るのなら、今日のうちの方がいいだろうと判断した悠斗が2人に向かって
「ケイト、ジェシカを空港まで送って行くよ」と声をかけた。
「ありがとう。でもパーティーが始まってしまうから、私がタクシーで送って行くわ」とケイトが慌てて言う。
「俺は、途中から入れば大丈夫だよ」そう答えると悠斗が車を取りに向かって走って行く。
「ジェシカ、アメリカに帰ったら、人を愛するってどういう事か考えてみて。そして周りをよく見て。お互いに思いやれる人を探してね」そう言うとジェシカは「できるかしら」と言って小さく微笑んだ。
「あなたならできるわ。おさむさんより素敵な人が現れるのを祈っているわね」そう言うとにっこり頷いて車に乗った。
車が小さくなるまで見送っているケイトに正孝が声をかける。
「ジェシカは帰ったのかな?」
「ええ、悠斗さんが空港まで送ってくださるって。おさむとエミに謝っておいて。ですって」
「そうか」
「ごめんなさいね。とんでもない姉妹で」
「そんな事はないさ。さあ始まるよ行こうか」
「またエミに嫌われちゃったわね」と呟くケイトを
正孝は、そっと抱きよせ「そんな事はないさ」と微笑んだ。
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