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「カンパーイ」
ガチンと重いジョッキを合わせた。いつ予約したのか駅前から少し離れた大衆食堂然とした店に連れてこられて、こうして男同士、面を付き合わせているところである。
「うまっ! やっぱり仕事終わりの生は最高っスね」
「オヤジみたいなこと言うなあ。歳誤魔化してんじゃねぇの」
ヒヒヒと笑うと「誤魔化してませんよ」と眉を吊り上げた。
「神林さんの五歳下、二十四ですよ」
「え?」
「何か?」
いや、ともう一度ジョッキを持ち上げた。
(意外だな)
ぼんやりしてるようでそういうところはちゃんと把握しているらしい。だったらそれなりに敬意を払っても良いんじゃねぇかとは思うけれど。
「何食います? 今日は神林さんにちゃんと栄養を取らせる会なんで、神林さんの食いたいもので良いですよ」
「栄養を取らせる会ってなんだよ」
「そのままの意味っス」
笑いながらラミネートされたメニューを渡される。写真もなくパソコンで打ち出したような文字だけの簡素なそれは、時折手書きされたテープで価格が修正されている。文字を追いながら裏返してみたが裏面は白紙だった。
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