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「じゃあ追っかければ良いじゃねぇか。簡単な話だ。お前が追っかければ相手だって嫌な気はしないだろうよ」
「そう思います?」
「ああ。でもストーカーにはなるなよ。お前、突っ走ると周りが見えなくなるからな。ハハハ」
笑い飛ばしてやると、翔太は「うーん。それは難しいかもしれないですね」と返して、掴んだ左手を顔の高さまで持ち上げた。俺の血管の目立つ左手と翔太のがっしりとした浅黒い手が視界に入る。くっそ。腰回りだけじゃなく、手さえ負けてるのが悔しい。俺は太りたくても太れねぇ体質だから仕様が無ぇけど、この差はあんまりだぜ。
翔太はその手を自分の顔に近付けながら言う。
「俺、絶対ストーカー気質あると思うんで」
低く響いた声に隣のテーブルから店員を呼ぶ声が重なる。翔太の手はまだ離れない。
「じゃあとっとと当たってこいよ。相手からも追われるようになるか、粉々にぶち壊れるか。ストーカーになる暇もねぇくらいのスピードで行け」
偉そうなことを言ったけれど、俺にそんな恋愛経験はない。翔太だって本気で悩み相談をしている訳じゃないだろうし、男二人の酒の肴には丁度良いってだけだ。
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