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「兎に角!」
翔太はハンドルをドスンと叩いて言う。
「俺は神林さんに倒れられたら困るんスよ」
へいへい、分かったよと下唇を突き出して付き合ってやると、むうと低くうなり声を上げた。
「じゃあ今日はちゃんと食べて下さいね」
「夜はそんなに腹減らねぇんだよ。俺は酒があれば良いから……アアン」
「わ、可愛い声」
不意にデカい手のひらが俺の腹をまさぐって、自分の声とは思えない気持ち悪い声が出てしまった。その手はへその上じゃなく微妙に脇腹方向にずれてるもんだからくすぐったくて仕様が無い。
「可愛いじゃねぇ! 馬っ鹿、止めろ! くすぐってぇ……ン」
学生同士みたいなじゃれ合いにすっかり調子に乗った翔太は、ニヤニヤと弓なりの目を作りながら助手席に向けて上半身を乗り出してきた。そしてその手を二つに増やす勢いで手を持ち上げたかと思ったら、突然「ああ!!」と大きな声を上げた。
「俺、良いこと思いついたっス!」
力が緩んだ隙をついて、翔太の手を左手で押し返す。これ以上やるようなら、車内にコーヒーを零してでも止めてやる。
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