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夫 裕介
広い駐車場に車を停めると俺は先に降りて、外から助手席のドアを開けた。
「ありがとう。」
そう言いながら菜摘は車から降りようとするが、やはりよろめく。
「危ない!」
慌てて支えると、俺はそのままその体を抱きしめた。
なんて細い体…。
以前の菜摘の体は、もっと柔らかくて温かかった。少しぽっちゃりとした体型が本人としては嫌だったようだが、俺は好きだった。
まだその感触を覚えているというのに。
今、俺の腕の中にいる菜摘はしわしわで冷たい。硬い骨の感触しかない。
強く抱きしめたら、折れてしまいそうな。
「ごめん、ごめん。」
菜摘が笑いながら謝る。
「太り過ぎちゃうと、自分の体も支えきれないんだよね。」
そう言って恥ずかしそうに笑う顔は、以前のままなのに。
立ち上がった菜摘は、大きく空を仰いで深呼吸をした。
「はーっ。気持ちいいねぇ。」
目を細めて嬉しそうに微笑む顔も、以前のままだ。
「行こうか。」
俺は、菜摘の骨と皮だけになってしまった手を取って、歩き出した。
数メートル先には静かに佇む、白い建物がある。周りの緑と青い空とのコントラストが眩しい。
しかしその建物の窓には、鉄格子がはめ込まれているのが見える。
それは、この清々しく綺麗な景色の中で、異様なまでの存在感を放っていた。
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