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妻 菜摘
「食べづわり」というものがあると、妊娠してから初めて知った。
先に子どもを産んだ友人たちを見ていて、「つわり」とは食事も取れないくらいにひたすら気持ちが悪く、食べ物の匂いだけでも吐き気をもよおしてしまうものなのだと思っていたのだが…。
いざ自分が妊娠してみると、逆だった。
食べていないと気持ちが悪い。
吐き気がする。
だから私は、常に何かを口にしていた。
だって気持ちが悪いから。
もともと食べることは好きだったし、お腹の中の赤ちゃんのためだと思えば、それもまた幸せなこと。
だから、今日も私は食べている。
ついさっき朝ご飯を食べたばかりだというのに、また吐き気が襲ってきた。
「あれ、また食べてるの?」
リビングに入って来た裕介が、呆れた顔で笑う。
「うん、だってお腹空くと気持ち悪くなるんだもん。」
私は、大好きなチョコチップクッキーを頬張りながら答えた。
そんな私を見て、裕介が「あはは」と笑う。
「菜摘、早く準備しちゃって。そろそろ行かないと。」
「あ、うん。」
今日、私は転院する。
赤ちゃんを安全に出産するために。
吐き気がするからとそれを理由にして、どうやら少し…いや、かなり食べすぎてしまったらしい。
妊娠後に体重が大幅に増加し、これまで通っていた病院では出産が難しいと言われてしまったのだ。
つまり、まぁ簡単に言えば、太り過ぎということだ。
クッキーの箱を抱えてソファーから立ち上がろうとすると、少しふらついてしまう。
すると、裕介が慌てて抱きかかえてくれた。
「気をつけて。」
「うん、ありがとう。」
本当に優しい夫だ。
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