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何とかなりそう
待ちに待った土曜日。
楽しみだからではなく、この背後の圧から解放されることを期待しているからだ。
幽霊と言われている存在は水曜から特に変わりはない。ずっと悠人の後ろでフヨフヨと浮いており、ホームルームと英語の授業の時だけどこかへ逃げていた。
なるべくその存在を見ないようにしたため、あれから目玉を直視することもなかった。
気味が悪いことは確かだが、ただ後ろにいるだけだ。慣れたかどうかと聞かれれば、慣れた。
今日は駅前のショッピングモールで待ち合わせだ。
どうやらここが幽霊の思い出の場所らしい。
この辺りに住む若者は大体ここで買い物をしている。幽霊の年齢がわからないが、「女の子」と響は言っていた。生前はこのショッピングモールでよく買い物をしていたのだろう。かくいう悠人も基本はここで買い物をすることが多い。
ビルの上から下まで高級ではないテナントがいくつも入っていて、学生にはちょうどいいのだ。
服も靴もカバンも。ファッションに関しては大体ここで揃う。
「冴木くん、お待たせ~」
待ち合わせの時間ピッタリに響はやって来た。淡いブルーのパーカーにジーンズ。悠人は赤いTシャツにジーンズだ。
「ちょっと待って、デートなのにオシャレしないの!? ボクはともかく」
「悪いな、音無……これが俺の精一杯のオシャレなんだよ」
一番良い服を着てきたつもりだった悠人は地味にショックを受けた。
そんな悠人を無視して、響が幽霊に話しかけた。
「幽霊さん、どこに行きたい?」
はたから見たら悠人に話しかけているように見えるだろうが、正確には響は悠人の右斜め後ろを見ている。
悠人は一言も発していないのに何か聞こえているのか、うんうんと頷いている。
「洋服見たいって」
「見てどうするんだよ。試着もできないだろ」
いくら可愛い服があったとしても幽霊には着ることはできない。
通訳は響にお願いできるが、試着は無理だろう。いや、響の無理ではないかもしれないが同じ男としてそれはお願いしづらい。
「冴木くんの服だってさ。やっぱりデートの相手にはかっこいい服着て欲しいよね!」
「悪かったな!? でも、金ないから服一式とかは買えないぞ」
Tシャツ1枚程度ならともかく、全身コーディネイトなんてされた日にはかなり痛い出費になってしまう。
バイトをしていない悠人にとっては死活問題である。
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