何かいる

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何かいる

冴木 悠人(さえき はると)高校2年生。 今日も何の変哲もない、いつも通りの日常が始まる。 洗面所に行き顔を洗って歯を磨くというルーチンをこなすために鏡を覗いたところ、何か変なものが見えた。 平凡な自分の顔から少しずれた位置。肩越しに薄っすらとした影みたいな霧みたいな、もやもやしたものがある。 「?」 起きたばかりで視界がぼやけているのかと思ったが、そうではないようだ。 まだ覚醒しきっておらず回らない頭でそれを凝視していると、灰色の影の中に目玉のようなものが見えた。その物体がギョロリと動く。 これはもう駄目だった。 「ぎゃああああ!!」 悠人の叫び声と共に、通常とは全く違う日常が始まってしまった。 「朝からうるさいわよ!」 母親の怒る声が聞こえてきたが返事をする余裕はない。 叫んだ原因となるものはまだ消えておらず、気を抜くとまた変な声をあげてしまいそうだ。 慌ててリビングに向かった悠人は、未だ肩にまとわりつく霧のような灰色を指さす。 「母ちゃん、これ、これ」 母は悠人の肩の方をちらりと見て、呆れた顔で答えた。 「何よ、何もないじゃない。寝ぼけてないで、さっさと朝ごはん食べちゃいなさい。早く食べないと片付けちゃうわよ」 「……はい」 母親に何を言っても無駄だと悟ったので、おとなしく朝食を食べることにした。 あんな変なものを見た後で食欲なんてないと思ったが、いつも通り完食した。 朝食の後は着替えてカバンを掴み、家を出る。 いつも通りの朝だ。背後に何かこの世のものではなさそうな何かがいるだけで、それ以外は普通の光景だ。 街を歩いていても、バスに乗っていても、悠人の背後にいる謎の影を気にする人間はいない。 どうやら悠人以外には見えていないようだ。 いなくなったのかもしれないと期待をしていたが、バスの乗降口にある鏡にはしっかりと背後に灰色の何かが映っていた。 悠人は溜息を吐いた。 初夏の穏やかな気候は気持ちが良いはずなのだが、憂鬱な気持ちで学校の門をくぐる。
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