何とかなりそう

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だが、響は気にしていない。 「お金あるよ」 「金持ちの発言」 この言葉を言える高校生が世の中にどれほどいるのだろう? いつもぽややんとしている響の口から、こんな俗っぽい言葉が出るとは驚きだった。 「ちーちゃんがくれた。これで楽しんできなさいって。ご飯も食べよ」 響が不用心にも財布から万札を見せてきた。1枚ではない。5枚以上ある。金の出どころは担任らしい。 「先生大好き。やっぱ金がある男は違うよな」 ただの高校教師がそこまで高給取りとは考えられないが、千影はどことなく富裕層のオーラがある。 実家が金持ちなのか、何か別の収入があるのか。いずれにせよ金がある男ということに間違いはない。 「ちーちゃんってお金に無頓着だよね。こんなに使わないって言ったのに」 「そこまでは知らないけど……お前、先生の何なんだよ」 「居候」 絶対ただの居候じゃないと思ったが、面倒なので追及しないことにした。 それよりも背後にいる存在を満足させて成仏させることが優先だ。 「そういうことにしておいてやるよ。服、見るんだろ。何か希望のブランドとかあるのかな」 「どうだろうね。あ、何か向かってるよ。そっち行こう」 灰色の影が動いていく。立ち止まったところは、高級とまではいかないが、悠人がよく利用しているようなリーズナブルな店でもなかった。 オシャレに興味を持つ若者の御用達というイメージのブランドだ。 早速、響が服の物色を始めた。幽霊と話をしているのか、たまに宙を見つめて何か話している。はたから見ると怖い。 猫が何もない場所をじっと見つめているときのような感じだ。 「冴木くん、服のサイズはM?」 「そう。ものによってはLだけど」 「とりあえずMにしておこう」 響が「試着してね」と悠人に服を手渡してきた。シックなシャツとパンツだ。 「どうかな」 試着室を出ると、響と幽霊がこちらを見てきた。 灰色の影にしか見えない幽霊がなぜこちらを向いたのかわかったのかというと。 あの目玉が見えてしまったからだ。 油断していた。 「ひっ」 思わず叫んでしまいそうになったが、ここが店だと気づき、慌てて悲鳴を飲み込む。一瞬、店員は変な顔でこちらを見たが、すぐに他の客の対応を始めた。 「かっこいいね!」 響は大絶賛だ。思っていることが素直に顔に出るタイプなので、これは心から褒めているに違いない。悪くはない気持ちなのだが、いつもTシャツにジーンズというスタイルの悠人には、このシックな装いは落ち着かない。 「そうか? 何か違和感ある」 「慣れてないせいだよ。幽霊さんも気に入ったみたいだし、これ買おう」 響はさっさと店員に「あの服着て帰りたいです」と伝えていた。 悠人ではなく響が支払いをしていることに店員は訝し気な目をしていたが、気づかないふりをすることにした。 きっとこの店に来ることは当分ない。
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