何かいる

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最近、気味の悪い出来事が身の回りでよく起きている気がする。 旧校舎では怪奇現象に遭遇するし、この前はよく買い物をするビルで転落事故があったらしい。 誰かに声をかけられたけど、振り向いたら誰もいないなんてこともあった。 厄除けにでも行った方が良いのだろうか。 「冴木くん、おはよう」 「おはよ」 下駄箱で靴を履き替えていると、クラスメイトの音無 響(おとなし ひびき)が声をかけてきた。いつもギリギリの時間に登校する悠人とは違い、真面目な響がこの時間に来るなんて珍しい。他の生徒はすでに教室に入っており、廊下には人がいない。 「今日、寝坊しちゃったんだぁ」 「だからこの時間なのか。珍しいじゃん」 同年代の男子生徒と比べると、響はおっとりした性格だ。口調ものんびりとしている。容姿も可愛らしく、マイナスイオンを発しているような雰囲気だ。本来は急いで教室に向かわないといけない状況なのだが、響のゆるい空気に悠人もつられてしまう。 「お父さんが今いなくて、遅い時間に起きてても怒られないから夜更かししちゃった」 「親がいないとハメはずして、前の日に夜更かしとかしちゃうよな。わかるぞ」 「……」 教室に入る直前、それまで普通に会話をしていた響が黙ってしまった。何か言いにくそうにしている。 「どうした?」 悠人が促すと響は声を潜めて聞いてきた。 「冴木くん。うしろの人、知ってる人?」 響の言葉に悠人は目を丸くした。 自分以外で初めてこの灰色のモヤモヤが見える人に会えた。思わずその場で立ち止まる。教室に入ってしまえば、この話をしづらくなるからだ。 「音無、お前これが見えてるのか?」 「うん、女の子いるよね」 人の形をした雲のようなものに目がくっついてるだけかと思いきや、響は明確に「女の子」と言った。 女の子と言われてしまえば、どんな子か気になるのが思春期の男というものだ。 「え? 可愛い子?」 その質問に響は固まった。大きな目が泳いでいる。 そして明らかに困った顔をして、一言。 「……うん」 「お前、嘘つけないタイプだな」 「……ごめん」 謝罪は後ろの影に対してなのだろうか。 あまり可愛くはないようだが、正体不明のモヤモヤは女性らしい。性別が判明したことで先ほどよりは恐怖が薄れた。
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