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「あ、冴木くん。おかえりー」
教室に戻ると響が迎えてくれた。こちらも相変わらずゆるい雰囲気だ。
「ただいま……」
「先生、何だって?」
「お願いしてみたら? って言われた。それ以外は何も」
悠人は溜息を吐くように答えた。わざわざ英語科の準備室まで行ったのに、何の成果もなかった。疲れただけである。
「まだ後ろにいるから、そんなことだろうと思ったよ」
響は悠人に同情的な顔をしている。
そういえば、と悠人は先ほどの千影との会話を思い出す。響が微妙な表情をしつつも可愛いと言い、千影は即座に可愛くないと言った後ろの存在。千影を信じるならかなりグロテスクなものが悠人の後ろにいるはずだ。
結局のところどうなのだろう。
「後ろのやつ、俺には何かモヤモヤした霧みたいにしか見えないんだ。音無は女の子って言ってたよな。どんな感じに見えるか教えて欲しいんだけど」
悠人の言葉に、響は良い案があるとでもいうような明るい表情で答えた。
「わかった! 頑張って描くね」
どうやら彼には口頭で説明する気はないらしい。明確に「描く」と答えた。
「あ、絵で説明するの? 大丈夫? お前の画力が心配なんだけど」
「大丈夫だよ。ボク、美術の成績良いんだから! 放課後までには見せるね」
「お、おう。そうか……わかった、お願いするよ。……って結構時間かかるな?」
「もうすぐ授業始まっちゃうから! 楽しみにしててね」
自信満々の響に流されるまま、悠人は放課後まで待つことにした。
今日は千影の授業がなかったため、ホームルームまで灰色のモヤモヤは後ろにいた。トイレに行った際はなるべく鏡を見ないようにした。あの目玉を見たくなかったからだ。
放課後になり、クラスメイトたちは部活やら帰宅やらで教室から出て行った。
残っているのは悠人と響だけだ。人がいないことを確認して響はノートを開いて見せてきた。
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