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「はい、できたよ。自信作」
「おお、ありがとう……って、ぐちゃぐちゃじゃねーか!」
そこに描かれていたのはピカソの絵のような人物画だった。
いや、キュビズムとも違う。顔の半分以上がペンの試し書きのようにぐちゃぐちゃで、かろうじて口元と鼻の半分ほどが人間のものだとわかる程度。
千影の言っていたものに近い気がする。響には絵の才能があるのかもしれない。
だが、悠人の「ぐちゃぐちゃ」を響は悪口と捉えたようだ。
「そんなことないよ! 頑張って描いたんだから、ちゃんと見て!」
「悪い悪い」
改めて響の描いた絵を見てみる。ノート1ページを丸々使って描かれている何か。やはり人の顔の形にしてはおかしかった。
「やっぱぐちゃぐちゃじゃねーか。絵の上手い下手じゃなくて、モデルがこうなってるってこと? だとしたら、どう見ても可愛い要素ゼロだろ! これだったら千影先生の可愛くないっていう評価の方が合ってるぞ」
「こ、こら! 本人の前で何てこと言うの!」
響が慌てて悠人の口を押さえる。響の言葉に悠人もハッとする。
「ああ! ごめん、今のナシ!」
女の子に対して今の発言は失言だった。悪いのは自分なので素直に謝罪した。
今は千影がいないため、灰色のモヤモヤは悠人の後ろにいる。
今の言葉を聞いてしまったはずだ。感情があるのかどうかわからないが、傷つけてしまったなら申し訳ない。
何というか、一日一緒に過ごして慣れてしまった。
「先生は自分の顔が良いから他人の顔の美醜に厳しいんだよ。わかる? 採点基準がハードモードなの」
響が諭すように言う。言っていることは理解ができる。美の基準が厳しいのも予想がつく。だが、それはそれ、これはこれだ。
「それは何となく。でも、ぐちゃぐちゃだよな、これ」
目の前にある絵は顔の半分以上がぐちゃぐちゃだ。おそらく見たままを描いたのだろうが、どういう意図か知りたい。、
「確かに、何か潰れてる? ところあるよ」
やはり背後の存在の顔は大変なことになっているらしい。響の描いた絵から大体予想がついていたので、もう悠人は驚かなかった。人の容姿を表現するのに「潰れてる」なんて単語を使うことがあるのだろうか。
「それが何で可愛いにつながるんだよ。潰れててわからないだろ。お前、言いにくそうにしてたし」
「……そこはフィーリングで……可愛いような雰囲気を感じとって……」
「うん、わかった。俺はもう何も言わない。とりあえず俺の後ろから去ってもらうようにお願いしよう」
たとえ可愛かったとしても、後ろにずっとくっつかれるのは御免である。
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