何とかしたい

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千影の言う事を聞いたということは、後ろの存在はこちらの話を聞いて理解することができる。説得すれば何とかなるのかもしれない。 「えー、大変申し訳ないのですが、俺の後ろから離れてください。このままだと生活に支障が出るので、よろしくお願いします」 悠人なりに、礼儀正しくお願いしたつもりだ。ただ「離れろ! 消えろ!」ではなく、きちんと離れて欲しい理由も伝え、「申し訳ない」と謝罪も一言入れている。完璧だ。 本当は「怖いので」と言いたかったが、そこは飲み込んだ。 これで灰色の霧が消えてくれる……と期待して待っていたが、数分待っても何も状況は変わらなかった。 まだ後ろにいる。気配を感じる。 うなだれる悠人に響がよくわからないアドバイスをしてきた。 「駄目だよー、ちゃんと相手の目を見て話さないと」 「この状況でどうやって目を見ろっていうんだよ」 後ろにいる存在の目を見ろと言われても無理な話である。というか、あのギョロ目を見たくない。「じゃあ、代わりにボクがお願いしてあげる」と、響が悠人の横に立つ。 灰色の影が正面ではなく横を向いているという、どうでも良いことを悠人は知った。 「幽霊さん、冴木くんが怖がってるので離れてあげてください。お願いします」 両手の指を絡ませ、首を傾げ、潤んだ目で宙を見上げる響。首を傾げた際に艶々した黒髪がサラリと揺れる。 間近で見るクラスメイトのお願いの仕方に悠人は戦慄した。 これは自分の魅力を知り尽くしている人間のやり方だ。 己の可愛らしい容姿と声を最大限に活用している。なんて恐ろしい。おっとりマイペースとばかり思っていた響に、こんな計算高い一面があったとは。いや、響のことだ。計算ではなく天然でこのポーズを取っている可能性もある。そうだとしたら、ある意味こっちの方が怖い。
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