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「今日は、戻れそうにない…?」
義母である里子から透のスマホに電話があったのは、22時を回った頃の事だった。
遅くなりそうだとは言っていたが。どうやら正幸が、叔父に飲まされすぎて、潰れてしまったらしい。
「あ〜すみません。こちらは問題ないので、明日の朝帰ってきたらどうですか?はい。それじゃあ…」
スマホを切った、透が振り返る。
そこには、優花が静かに眠っていた。
旅館に戻って来てからも上機嫌だった優花は、晩御飯を食べ終わるとすぐ、ぱったりと寝てしまい、起きる気配はない。
透は傍らに腰を下ろす。
浴衣という普段着ない物を身につけた優花は、可愛かった。
少し乱れた裾から覗く、すんなりと伸びる足。
最近女性らしいラインを描くようになった腰から背中。
襟元から覗く白い肌。
頬にかかった黒髪を後ろに払ってやると、薄く開いた唇が露わになる…。
キシ…っと畳が軋む音と共に、寝ている優花に覆いかぶさり、顔が身体が近づく。
今にも、唇が重なろうとした時…。
「……っ」
バッ!っと体を起こした透は、部屋を出て扉を閉めると、背中を預けて、右手で髪をかき上げる。
「……っ何してるんだ、俺は…」
透は……「恋人のふり」したことを、後悔していた。
一日目の観光の時、優花をナンパをしようとしている男がいたのだ。おそらく優花は気づいていない。だから、守るための提案だった。
けれど、自分の欲が入っていたのも否定できない。
その結果…違和感が無さすぎた…いや、自然すぎたのだ。
あの夏の夜。気づいてしまった、自分の欲。
一度気づいてしまうと膨れ上がってしまい、優香と一緒にいると、事あるごとに顔を出しそうになる。
いっそのこと、言ってしまおうかとと思ったこともある。
だが…優花が自分に求めているものが、「兄」だったとしたら…?
それを裏切って優花を、傷つけてしまったら…?
透はそれが怖い。
けれど…可能性が、あるとしたら…?
もしかしたら、今よりも苦しい思いをするかもしれない。
しかし、これ以上は、耐えられる自信が、ない。
それならば……
透は、この時、決意したのだ。
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