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3 きっかけ
それは、透が中学校3年生。優花が中学校1年生になった、夏の夜の事。
その日は、今年一番の暑さを記録した事もあり、昼間に地上に溜まった暑さが逃げていかずに、夜になってもなんとなく重苦しい。
「あ〜もう、あつ〜い!!」
ソファーに座って、テレビのを見ていた透の横に、お風呂から上がって来たばかりの優花がラグに直接座る。
透の位置からは、優花を見下ろす感じだ。
優花は長い黒髪をざっくりと大ぶりなヘアクリップでまとめて、ノースリーブのワンピースを着ている。
「飲むか?」
透が優花に差し出したのは、自分が飲んでいた冷たいレモネードが入ったグラス。
透を見上げると、あの時と変わらない笑顔を向けてくれる。
「ありがと」
優花はを受け取ると実に美味しそうに飲む…。その姿を、透は満足気に眺めた。
風呂上がりのほんのり色づいた首筋に、ヘアクリップで止めきれなかった髪が一筋、はらりとかかっている。髪の生え際から汗が一筋伝う。
透は、その汗を拭おうと指先を伸ばす…。
その指先が首に触れた瞬間。
「んっ!」
優花がビクッと驚いて振り返る。
「透!ちょっと!急にくすぐらないでよ!!」
透は、上目遣いに睨んでくる優花のほのかに頬を染めた顔を見た瞬間、跳ねた自分の心臓と、触れた指先がチリッと熱を持って疼く感じに呆然する。
そのまま脇をくすぐって反撃してくる優花とのじゃれあいに雪崩れ込んだ。
ただ、指先に感じた熱がいつまでも残る…。
いつもは「兄」の仮面の下に隠している何か…それを、強く意識する。
そして、一度意識してしまったものは、なかったことには出来ないのだ…。
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