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4 恋人のふり
時は流れて、透は春には高校3年生。優花は高校1年生になる。
優花は、透と同じ高校に通いたいっ!と、透に教えてもらいながら、頑張って勉強し、同じ高校の制服を着る事が出来ると喜んだ。
そんな優花のお祝いも兼ねて、春の間に二泊三日で温泉旅行に行くことになったのだ。
正幸が運転する車で、春を感じる山々を眺めながら、正幸の兄が近くに住んでる温泉地、鹿熊温泉に向かう。
家族旅行は初めてで、優花はテンションが上がりっぱしだった。
一日目は温泉地近くの観光名所を巡り楽しく過ごす。
ところが、旅行二日目の朝、正幸の兄から家に顔を出せと連絡があったのだだ。
たくさん行きたいところがあった優花は、内心ガッカリだったのだが、それを知っていた透は、叔父さんのところへは両親で行ってもらって、優花と自分で温泉街を回ると提案してくれたので、二日目は両親と別行動になった。
そして二日目。両親が出かけた後、透と優花は街へと繰り出した。
あちこちから上がる蒸気、風に乗って漂ってくる硫黄の匂い。沢山の土産物屋や、食べ物の店頭で売っているお店や、おしゃれなカフェもある。
そして、温泉街の中心地にある、源泉のお湯が湧き出している湯池を眺めていた時だった。
「今日だけ、恋人のふりをしよう」
透にそう言われたのだ。
私と透が、恋人のふり…?
その提案は、不思議と違和感がなかった。本当に、不思議なことに。
思わず、ポカン…としてしまった優花の反応に、透が慌てたように言う。
「いや、優花が嫌なら別に…」
「……る…」
「え……?」
「やる!何それ!すっごく楽しそう!!」
興奮気味にワクワク感全開で返事をした優花に、透はじんわり、滲むように優しく笑う。
「よし!じゃあ、行くか!」
そう言って手を差し出した透の手を取る。
「うんっ!」
それからの時間は、最高に楽しかった。
鹿熊温泉名物である、クマとシカのクッキーが乗ったキャラメルとチョコレート味のミックスソフトクリーム「しかくまソフト」をシェアして食べたり、足湯に浸かったり、射的にチャレンジしてみたり…温泉街を満喫しながらも、自然に繋いだ手から伝わる温もりや、透の親指が時々撫でるように動くくすぐったさ…そして、透の向けてくる視線の甘さが、いつもと違う。
けれど、優花はその事に何の違和感もなかった。
違和感が無い事への違和感。それを感じつつも、深く考えようとはしなかった…。
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