5 運命の人

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5 運命の人

 「俺に、兄を求めるな!」  透の吐息が辿った頬が、言葉を吹き込まれた耳が、熱い。  熱を持って疼く。    「どうして、そんなこと言うの…?」  透は、本当にその後、家を出てしまった。  優花は、透の言葉の意味を考え続けた。  一緒にいるのが普通で、なんの違和感もない。  この関係はなんなのか…?  ずっと一緒にいてくれると思ったのは、気のせいだったのだろうか…。  透がいなくなって数ヶ月。  考えたけれどやっぱりどうしてもわからなくて…優花は透に会いに行くことにした。  きっと、会いに行けば、何かがわかる。そんな気がして…。  透の通っている大学の前で、優花は待っていた。  だが、やっと出てきた、透の横には、女が立っていた。  透はまるで自分のものだと主張するように、腕を組んで…。  女は、優花に気がつくとキッと睨む。  「誰…?」  透が、自分ではない女と腕を組んでいる…ショックを受ける優花を、透は見つめる。  「妹」  「え?」  「その子、俺の妹だから。気にしないでいいよ」    透はそのまま、優花の目の前を通り過ぎてゆく。  透が、他の女と歩いていた…。  私じゃない、人と……。  「………っ」    優花は、思わず透の事を追いかけて、腕を掴んでいた。  「透!!」  透は、冷えた目で優花を見る。  優花はその目に何も言えず…ただ、腕を掴んでいることしか出来ない…。  その様子に、透はため息を吐くと、  「ごめん。今日は帰ってもらっても良いかな」  女は二人のただならぬ気配を察してか、素直に帰っていった。  「バカだなぁ、優花。なんで来たの」  優花がおそるそる、透を見上げると、苦笑をしながら優花を見ている。  優花は、いろいろな思いが溢れて来てしまって…けれど何一つ言葉にならず…代わりに出て来たのは、涙だった。  頬を涙が伝う。  透は優花の涙を拭い、優花を抱きしめた。  新たな涙が伝う優花の頬に、自分の頬を触れ合わせる。  「俺はもう、お兄ちゃんではいてやれない。だから、もう、来ちゃダメだ」    そう言い残して、透は優花を残して去ってゆく…。  優花が涙が、アスファルトに点々と落ちる。  優花は、気づいてしまった。  透と隣に女がいるのを見てしまった時に。  あの一瞬、胸に燃え広がったあの感覚…あれはだ。  とうの昔に、透の存在は自分にとって「お兄ちゃん」では無くなっていた…いや、出会った時はすでに違っていたのだとしたら…?  透は、なんと言っていた…?   …?  ならば……?      
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