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無人の荒野を乾いた風が吹き抜けていく。空には鳥の影ひとつない。
遠目に植物らしきものが見えたが、それは巨大な食虫植物のような外見をしていて、獲物を探して移動していた。
俺はそっとその場を離れた。
「植物も食べられそうにないな。ちょっと休憩するか」
大きな岩に腰を下ろした時、視界の端にあるものを見つけた。
岩のそばに木の枝で編まれた鳥の巣のようなものがあって、その巣に俺の頭よりも大きな茶色の卵があった。
「これはサザの卵か? ということは、ここはサザ星人の星か!」
サザ星人とは、茶褐色の羽と身体を持つ鳥に似た宇宙人だ。すでに絶滅したと聞いていたが、まだ生き残りがいたらしい。
サザ星人は高い知能を持つ宇宙人だが、その卵や肉が非常に美味しいらしく、美食家宇宙人たちによって狩り尽くされてしまったのだ。
「最後の生き残りかもしれないが、ようやく見つけた食料だ。悪く思うなよ」
とりあえず宇宙船まで戻って火を起こし、目玉焼きにしよう。
三ツ星シェフが評価した卵の味を想像すると、空腹もあいまってよだれがあふれてくる。
両手でそっと卵を持ち上げると、その重みと温もりに心臓がドキッと跳ねた。
まだ生きている。
胸に生まれた罪悪感を振り払うように、俺は首を横に振った。
「しっかりしろ、ナージ。生きて帰るんだろ? これを食べないと飢え死にだ」
そう自分に言い聞かせながら、俺は歩き出した。
宇宙船のもとまで戻ってきた時、何気なく卵に視線を落とすと、卵から二本の足が生えているのが見えた。
「あ、足が!」
ぎょっとして思わず手を離してしまったが、卵は地面に落ちても割れずにころころと転がった。
卵から飛び出した足がバタバタと動き出す。
「やばい、完全に生まれる前に仕留めないと! 大人しく食わせろ!」
卵に手を伸ばすと、飛び出た足に顔面を蹴り飛ばされて、俺は後ろに吹っ飛んだ。
地面に転がった俺は、鼻血を手の甲で拭いながら、恐る恐る卵に視線を向けた。
卵は二本足で立っている。
「成人男性が卵ごときに負けるとは……」
サザ星人は孵化すると一週間ぐらいで成鳥になるらしい。
しかも成長するにつれて力が強くなり、狩りの難易度が上がるという。
すぐに仕留めないと、今の体力じゃ手に負えなくなる。
「お前も生きるために必死なんだよな」
俺が立ち上がると、卵は警戒するように後ずさりした。
先程の強烈な一撃のおかげで、迷いはすっかり消し飛んでいる。俺の顔は笑っていたが、腹の中は煮えくり返っていた。
「けど、俺も必死なんだ。本当は油で揚げてやりたいところだが、丸焼きで勘弁してやるよ!」
俺と卵の長い戦いが始まった。
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