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遭難二日目の朝。
「しぶといやつめ……」
目の前で余裕たっぷりに動き回る卵の姿に、頬が引きつった。
あざだらけになっている俺の身体とは対照的に、卵には傷ひとつついていない。
すると、パキパキと殻が割れる音がして、中から茶褐色の鳥のヒナが姿を現した。
「チュリリリリ~!」
と謎の鳴き声を上げて、サザ星人は誕生した。
ヒナというよりも、小さな成鳥といった姿だ。
「最悪だ……どうやって仕留めれば……」
ふと、腰に吊り下げたホルスターに銃が入っているのを思い出した。
銃弾は一発。もしものためにと、今まで大事にとっておいたのだ。
俺はサザ星人から視線をそらさずに、銃を手にとった。
「よしよし、ソテーにしてやるからな」
サザ星人はきょとんとした目で、不思議そうに俺に近づいてきた。
武器とも知らずに近づいてくるその無邪気さに、俺は思わずたじろいだ。
「馬鹿! 何考えてる!」
「ピ?」
俺ははっと我に返り、あわてて銃口をサザ星人の頭に向けた。
「サザ星人が絶滅しようとも、俺は生きて帰らなきゃいけないんだ!」
お前を殺す理由がある。そう言い聞かせるように俺は叫んだ。
引き金に指を添える。
サザ星人はその顔に恐怖を浮かべることなく、ぱかっと嘴を開いた。
「なーじ」
サザ星人から発せられた音に、俺は言葉を失った。
「なーじ、いきる、かえる!」
サザ星人はぴょんぴょんと飛び跳ねた。
その言葉は、卵を手にとった時につぶやいた俺の言葉だ。
卵の中で、異星人の言葉を学習したというのか。
照準がぶれて定まらない。
「なーじ!」
『パパ』
幼い鳴き声に、息子の声が重なって聞こえた。
脳裏に、最後に見た息子の姿がよみがえる。
息子は病院のベッドに横たわりながら、大好きな絵本の表紙を俺に見せて笑った。
『パパ、ヒーローになってきて』
銃が手から滑り落ちる。
サザ星人は落ちた銃と俺を交互に見た。
「ヒーローになるために……」
「ひーろー?」
サザ星人を見下ろすと、ぐるぐると目が回った。
「一度休むか……」
俺は落ちた銃をホルスターに戻し、サザ星人の捕獲を一時的にあきらめることにした。
ひとまずは、通信機を直すことに集中する。
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