ヒーローの証明

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 遭難四日目。  簡易宇宙植物図鑑によると、ブルーベリーに似た小さな実だけは食べられることがわかった。  たったふた粒ではあったが、物を口にできるというだけで安心感を得られた。 「ナージ! あったよー!」  植物をたくさん詰めこんだ木の器を手に、サザ星人が駆け寄ってきた。 「べつにナージのためにとってきたわけじゃないからね!」 「はいはい」  あきれながらも俺は内心驚いていた。  いつの間にか、自然に会話できるようになっている。 「ほら、見て!」  サザ星人が羽を使って、木の器を俺に差し出した。  器の中には、俺が食べられる実が十粒ほどあった。 「よく見つけたな、俺は全然見つけられなかったのに」 「えっへん!」  サザ星人は得意気に胸を反らした。  十粒であろうと食べ物が用意されるだけありがたい。 「ありがとな、スーナ」 「えへへ、ありがとうだって!」  サザ星人は照れたように笑って、それからはっと顔を上げた。 「スーナ?」 「いつまでもお前じゃ不便だろ。お前の両親がどんな名前をつけようとしたかは知らないが、好きなように呼ばせてもらうぞ」  スーナと名付けたサザ星人は目を輝かせて、歌うように鳴き始めた。 「名前! 名前だー!」  そこまで喜ばれるとは思わなかったので、俺は照れくさくなって頬をかいた。  月明かりのない暗闇の中、俺たちは焚き火を挟みながら夕食をとっていた。   「ナージは、どうしてこの星に来たの?」  スーナの質問に、俺は最後の実を口に放りこみながら答えた。 「故郷に帰る途中で宇宙船が故障して、墜落したんだ。せっかく薬を手に入れたのに、ついてない」 「薬?」 「俺の星には厄介な病気が蔓延しているんだ。治療薬を探すために何千人と派遣されて、俺だけが生き残り、薬を手に入れた。だから絶対に帰らなきゃならない。息子を助けるためにも」 「ムスコ? 家族?」 「ああ、俺の宝物だ」  病に侵された息子のためにも、一秒でも早く故郷に帰りたい。  俺は通信機の修理にとりかかった。 「ナージにも大切な家族がいるんだね。べつにうらやましくないけど!」  そう強がるスーナの羽が、かすかに震えていた。  何となく無視できなくて、俺は修理を中断して、あぐらをかいた足をぽんっと叩いた。 「冷えてきたから、こっちに来い」 「え?」 「お腹いっぱいだから一時休戦だ」  スーナは嬉しそうに羽をバタつかせて、ぴょんっと立ち上がった。 「ナージが寒そうだからそっちに行ってあげる!」 「はいはい」  スーナはぴょんっと跳ねて、俺の足の間にすっぽりと収まった。  柔らかい羽の感触が心地良くて温かい。  その時、ぐーと腹が鳴った。 「ナージのお腹鳴ったよ?」 「俺はお腹がいっぱいでも鳴るの」 「でも」 「お前はさ、俺や他の宇宙人が憎くないのか?」  俺はスーナをさえぎって、疑問に思っていたことを口にした。 「べつにナージが滅ぼしたわけじゃないでしょ」 「それはそうだけど」 「だから、ナージのことは憎くないよ。むしろ、会えて嬉しいというか」 「何だ?」 「何でもない! そんなことより、前言ってたヒーローって何?」  スーナは強引に話をそらした。俺はすこし考えてから答えた。 「困っている人を救う人だな。息子が好きな絵本に、ヒーローと相棒の妖精が困っている人たちを救う話があるんだよ」 「へえ、つまりナージはすごい人なの?」 「どうかな」  俺は言葉を濁した。子供に銃口を向けた大人をヒーローと呼べるのだろうか。 「仕方ないな、スーナが特別に相棒になってナージをヒーローにしてあげる!」 「お前みたいな相棒は御免だね。いてっ」  嘴で腕を突かれたが、手加減してくれたのか、本当は全然痛くなかった。
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