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03.青い空から地面へと
「うん。君はいつもキラキラと輝いていて、いつも俺を引きつける。すごくすごくね」
そんなことを言われた私は、背中に羽根を生やして空を飛びまわりたい気分。彼はそんな私の顔をじっと見て、真剣な顔をする。
「けど、ダイヤモンドはすごく硬いだろ? 世界でいちばん硬い物質だ。なんて言えばいいのかな。君はいつも心を開いてくれない。そんな気がする。君の心は硬いダイヤモンドの中にしっかりと仕舞い込まれていて、本心はけっして見せない。俺がどんなに君の心を感じたいと願っても、君の心は硬いダイヤモンドに守られている」
一気に羽根をむしり取られた気分。青い空から地面へとまっさかさまに落下するときのような。
私は動揺を押し隠して、彼に聞き返す。
「どうしてそんなふうに思うの?」
私の言葉に、彼は空を見上げて考える。
「きっとね、君の心の揺れ、みたいなものが見えないからなんだと思う」
「揺れ?」
「うん、君はいつだってクールで冷静。キラキラとしているけど、その輝きの向こう側が見えない。喜怒哀楽の感情なんて持ってるのかなとさえ思う。ま、ただ俺と一緒にいるのがつまらないだけかもしれないけどさ」
彼はそう言って、悲しそうに笑った。そんな彼に否定しなきゃ、と焦る私。でも、その焦りを表に出さないように、と思わず考える。
「違う、そんなことはない」
動揺に気づかれないよう出来るだけ冷静さを保ったままの私の言葉に、すかさず彼が言った。
「そういうところかもしれないな」
「……。ごめん」
「別に謝ることでもないよ」
その言葉を聞いて、なにもかも彼に見透かされてしまっているみたいにさえ思えてきた。彼は私が心を押し隠しているのを初めからみんな見抜いていて、それでもそんな私に……。そんなふうに考えると、なにもかもが最悪に思えてきた。
公園のベンチに座っていた母親たちが立ち上がり、子どもの名前を呼んだ。子どもはまだ遊び足りなさそうな顔をしているけれど、それでも母親に手を引かれて公園を出ていく。
きっと彼には私があの子どものように見えているのかもしれない。そんな光景を見ていた私の頭にそんな考えがふと浮かんだ。
まだまだ遊び足りない、このままずっと遊んでいたいから家に帰りたくない。言葉に出してはっきり言わないまでも、母親にそんな気持ちはなんてとっくに見透かされているように。
「……、あなたの言うとおりかもしれない」
私は深いため息をついて、思い切ってそう告げた。
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