04.空っぽの人間

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04.空っぽの人間

「そう?」  彼が言った。私の言葉を待つように短く。 「たしかに私はあなたに自分の心をみんな見せてるわけじゃない。ほんの少しだけ見せてるってところかもしれない」  私の言葉を聞いた彼は深く息を吐いた。ため息のように。 「つまり、私の本当の心なんてあなたに見せるとね、きっとあなたに嫌われてしまうんじゃないかなって思ってしまうの。それもこれも、あなたに嫌われたくないから……。それだけよ」 「そんなことで、どうして俺が君を嫌う?」  彼が聞き返す。 「くだらないことで喜んで、つまらないことで怒ってるだけの人間なの、私は。言ってみれば空っぽの人間。中身なんてなにもない人間なの。だから、中身なんてなにもないことを隠すためにクールでいようって……。それだけよ」  そう言ってしまうと、私は今まで彼と一緒にいてからずっと、嘘をついて生きてきたような、そんな気分がやってきた。最悪な気分だった。それは中身なんてなにもない人間にぴったりのような気分。今すぐここで泣き出してしまいたくなるくらいに。  彼が深いため息をついた。そしてあきれながら言った。 「それなら俺だって中身なんてなにもない空っぽな人間だよ」 「あなたが空っぽだなんて、そんな……」  そこまで言いかけたとき、唐突に私のおなかが大きな音を立てて鳴った。おなかの虫が空腹に耐えきれなくなって、大きな鳴き声を上げたみたいに。  突然の音に、彼は驚きの表情。そして、思わず吹き出して笑う。 「ごめんごめん。まさか、こんなときにおなかが鳴るなんて。それにしても大きな音だったなあ。そんなにおなかが空いてるの?」  彼の笑い声は止まらない。私は熱く火照る顔のまま、今すぐここから逃げ出したくてしょうがない。 「そんなに笑うことなんてないでしょ!」  思わず大きく叫んだ。考えてみれば彼に対して、怒りに任せて叫んだのは初めてだ。 「ごめん、本当にごめん。たしかに君は空っぽの人間だよ。ある意味でね」  笑いながらそう言った彼の言葉に、私も思わずあきれてしまう。こうなったら一緒に笑うしかない。 「だって、お昼ごはん食べてないからしょうがないでしょ」 「そうなんだ、忙しかったの?」
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