死に生を粧う

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――うん、きれいじゃない?  メイクブラシを握ったまま、鏡谷望愛は心の中で大きくうなずいた。  眉尻は少し下げて優しい印象になるように気を付けたし、目の際をほんのり赤くし、流行を押さえた。  ベースもきれいに整えて、シミやシワをしっかりカバーしたにも関わらず、首もととの違和感はない。  望愛の目の前には、美しいメイクを施された遺体が横たわっている。  遺体は、満たされて眠っているように見える。  我ながらいい仕事をした、と望愛が一息つこうとしたときだ。 「あー……これはダメですね」  笑みを含む、柔らかく響く声がおちてきた。  イラッとしながら見上げた望愛の視線の先には、真っ黒のスーツを隙なく着こなした青年が立っている。 「榊原さん?」  望愛は眉を寄せた。  榊原は一見、優しい好青年風だ。初めて会った時はこの外見に騙された。  長身で、スーツ越しにも筋肉があると分かる体躯なのに首や手首が細いモデル体型。  さらに丁寧に撫で付けた髪は清潔感があり、警戒心を抱かせない程度に整った顔立ちで、人懐こそうなたれ目とくれば、ぐらりと来ない女性は少ないだろう。 (でも、私は騙されない)  思わず、ブラシを握る望愛の手に力が入る。本音では殴りたいが、そんなことはできない。何しろ、榊原は『お客様』なのだから。
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