死に生を粧う

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 望愛の愛用するアイライナーはリキッドタイプだ。  ペンシルタイプよりラインが明瞭で細かく引けるところが気に入っている。  小麦色の結希には、濃い黒でくっきりとラインを作るメイクが似合う。  テーブルに乗り出して、結希の目尻にアイライナーの筆先をのせた瞬間だった。 「えっ?」  どん、と何かが望愛にぶつかり、手先がぶれる。  あっと思ったときには、子供のいたずらがきのようなラインが出来ていた。  よりによって、結希の目尻から額の中央に濃厚な黒い線が引かれたのだ。  結希も異常を感じたのだろう。目を開け、辺りを見ている。 「あー、すみません」  男の声がし、振り向くと、真っ黒なスーツを着た男がいた。 「え、イケメン」  自分の顔がどうなったか知らないから、結希はそんなことが言えるのだ。  男は軽い言葉ひとつでなにもなかったことにしてその場を去ろうとする。 「ちょっと待ってよ」  望愛は立ち上がり、男の前に立ちはだかった。 「人にぶつかって、こんな顔にして」  男は、望愛の言葉ではじめて結希の顔の被害にきづいたらしい。 「うわっ」  しかし気づいて謝るどころか、面白いものを見つけた少年のように顔を歪めた。
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