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男と目があった。
男は、望愛を見下ろすと、馬鹿にしたように目を細めた。
「こんなところで化粧をしている方が非常識なんですから」
「はあ?」
ぶつかった当の本人は泣くほど反省している横で、この男は何を言い出すのか。
「ちょっと!」
男は老婆を背後に移動させると、スーツのうちポケットから財布を取り出した。
「公共の場のマナーは守った方がいいですよ」
笑みと共に差し出してきたのは、数枚の札。望愛たちがラテとフードを頼んでもお釣りがでる。
「なんですか、これ!」
声をあらげる望愛の肩に痛みが走った。
テニスプレーヤーの握力は強い。望愛の肩を結希が掴んだせいだ。結希はいつのまにかテーブルを回り込んで望愛のとなりにいる。
「いえいえ、こちらこそすみません」
結希は満面の笑みを浮かべ、男から札を受けとる。
「お気を遣わせてしまって」
「よかったです。ご友人は話のわかるかたで」
男は結希に礼を述べると、老婆をつれてその場を去った。
結希は機嫌良さそうに札を見て「逆に得しちゃったじゃん」と満面の笑みだ。
「何いってんの? ひどい顔になってるんだよ?」
ポーチから鏡をとりだし結希に向ける。ところが結希は声をあげて笑うだけだった。
「いいって。このくらい。望愛、直すのもうまいじゃん」
「そういう問題じゃないでしょ」
「まあまあ。イケメンの言う通り、私らも悪かったしさ。トイレいこうよ」
「カフェのトイレでメイク直す方が迷惑でしょ! ひとつしかないんだし」
結局、周りの様子を見ながらオープンテラスでメイクを直し、もらったお金はその日のうちに食べ物で消えた。
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