死に生を粧う

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「お疲れ様です、榊原さん。具体的にはどのあたりがダメなのでしょうか?」 「あれ見ました?」  榊原が指差す先には、黒い額に収まった遺影写真があった。  朗らかに微笑む高齢女性は、望愛がメイクを施した故人に相違ない。  日常のスナップ写真を加工したのか、写真の故人は化粧をしておらず、頬にはたくさんのシミが浮いている。 (あんなすっぴんの時より、もっときれいな装いの時の写真にしてあげればいいのに)  写真を選んだのは女性ではないだろう。  少なくとも、望愛が写真を選ぶ立場なら、もっと美しい姿のものを選ぶ。  少しでもきれいでいたい、きれいに見せたいと思うのは、女性として自然な欲求ではなかろうか。 「見ました」  望愛にとって自明の理であることが、目の前の男には理解できないのかもしれない。  本音では「見たけど、それがどうかした?」と言いたいところを飲み込んで、冒頭だけにとどめ、望愛はなんとか笑みを作った。  嫌なやつだが、榊原は客だ。一応、客として扱わねばならない。  腹立たしいが、最低限の礼儀は払わねば。  望愛が理性を総動員してなんとか愛想笑いをした矢先、榊原は大きなため息をついた。 「一応、聞きますけど、この仕上がりって、冗談ですよね?」
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