死に生を粧う

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 榊原の視線の先――望愛はメイクを施した故人を見る。  メイクのお陰で、死者とは思えない。  襟元をおおうタオルを外せば白い仏衣が見えるからすぐに死者とわかるが、こうしていると、ただ眠っているようだ。    シミもくすみもきれいに消え、血色よく美しいメイクを施された顔を見て、死んでいると判断する人は少ないだろう。  実際の年齢は83歳と聞いているが、それより10歳は若返ったように感じる。  この仕上がりのどこに問題があると言うのか。  望愛は榊原を睨みつけた。  この男、いつも望愛の仕事に難癖をつけてくる。  もしも故人が今のメイクを見ることが出来たら、あまりの仕上がりに歓喜するはずだ。きれいにしてもらえてうれしくない女性はいない。  女心が分からないから的外れなことを言っているに違いない。 「うわ、反抗的」 「それは失礼しました」 「全然思ってないですよね。ああ、そうだ。なら、上の方の意見をうかがってみては?」
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