死に生を粧う

4/115
前へ
/115ページ
次へ
 笑みを浮かべた榊原が「ですよね」と背後を振り返る。  そこには、濃紺のスーツを着た上司がいた。株式会社ケアーの制服だ。 「東海林さん! 見てください。私、きれいに仕上げました」  東海林なら、この仕上がりがどれだけ素晴らしいか理解してくれるはず。  たとえ男でも、東海林の腕は確かだ。望愛の一回り以上年上にもかかわらず、年齢不詳の若々しい肌なのもうなずける。彼の遺体の肌を保湿する技術は高く、葬儀が一週間先でもメイクが崩れることは滅多にない。 (きれいだし、きっと褒めてくれるはず!)  望愛は東海林の笑顔を想像したが、結果は真逆だ。東海林はため息をつくと榊原に頭を下げる。 「申し訳ありません。すぐにやり直します」 「お手数をおかけしますがよろしくお願いします。ついでに、しっかり指導もしていただけると助かります」  榊原は爽やかな笑みを浮かべて東海林に返事をする。  望愛に向けた表情とは雲泥の差だ。  しかも、部屋を出ていく際、望愛が東海林の後ろから睨んでいるのに気づくと、馬鹿にしたような笑みを浮かべる始末だ。 (性格わるっ!)  四畳半の湯灌室には、望愛と東海林、それと故人だけが残った。  故人が横たわり、大量のメイク道具が散らばっている。  そのせいか、望愛は狭い部屋がますます狭く感じた。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加