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笑みを浮かべた榊原が「ですよね」と背後を振り返る。
そこには、濃紺のスーツを着た上司がいた。株式会社ケアーの制服だ。
「東海林さん! 見てください。私、きれいに仕上げました」
東海林なら、この仕上がりがどれだけ素晴らしいか理解してくれるはず。
たとえ男でも、東海林の腕は確かだ。望愛の一回り以上年上にもかかわらず、年齢不詳の若々しい肌なのもうなずける。彼の遺体の肌を保湿する技術は高く、葬儀が一週間先でもメイクが崩れることは滅多にない。
(きれいだし、きっと褒めてくれるはず!)
望愛は東海林の笑顔を想像したが、結果は真逆だ。東海林はため息をつくと榊原に頭を下げる。
「申し訳ありません。すぐにやり直します」
「お手数をおかけしますがよろしくお願いします。ついでに、しっかり指導もしていただけると助かります」
榊原は爽やかな笑みを浮かべて東海林に返事をする。
望愛に向けた表情とは雲泥の差だ。
しかも、部屋を出ていく際、望愛が東海林の後ろから睨んでいるのに気づくと、馬鹿にしたような笑みを浮かべる始末だ。
(性格わるっ!)
四畳半の湯灌室には、望愛と東海林、それと故人だけが残った。
故人が横たわり、大量のメイク道具が散らばっている。
そのせいか、望愛は狭い部屋がますます狭く感じた。
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